2024 11,25 10:36 |
|
2009 01,24 14:00 |
|
バラク・オバマ米大統領は早期の景気浮揚を目指して、2年間で8000億ドル(約72兆円)規模に上る景気対策を打ち出した。施策の中で注目されているのが、いわゆる「グリーンニューディール政策」だ。 景気対策には、風力発電、太陽光発電、バイオ燃料など石油に代わる再生可能エネルギーの生産を3年で倍増し、住宅200万世帯を省エネ化するといった目標を新たに盛り込んだ。 「2年間で300万人」という雇用創出目標に、グリーンニューディール政策による創出分は明記されなかったが、オバマ大統領は選挙戦における公約で、再生可能エネルギーの開発・導入に10年間で1500億ドル(約13.5兆円)を投じ、500万人の雇用を生み出すという大胆な目標を掲げてきた。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
環境も雇用も経済成長も。“一石三鳥”を狙う政策は果たして実現するのか──。地球温暖化など環境問題の世界的な第一人者で、歴代政権のコンサルタントも務めてきた米スタンフォード大学のステファン・シュナイダー教授に聞いた。
シュナイダー 正しい方向へ踏み出す非常に重要なステップです。前政権の環境政策に比べればかなりの成果を上げるでしょう。 まず、金融危機によって企業の資金調達が困難になっている。米連邦議会の議員たちとも激しく対立するでしょう。石炭や石油業界の既得権を保護しようとする議員もいれば、SUV(多目的スポーツ車)のような大型車ばかりを作って、環境対応車の開発を怠ってきた米自動車メーカーの擁護に回る議員もいるからです。 オバマ大統領が環境技術の開発支援に必要な予算を確保するためには、これらの議員と戦って勝利を収めなければなりません。 もっとも、十分な金額の予算を確保できたとしても、インフラが整備されて石油に代わる再生可能エネルギーが生産されるようになるには数年かかります。
―― 環境技術において、米国企業は海外勢に立ち遅れているという指摘もあります。米国に、グリーンニューディール政策の受け皿になれる技術力を備えた企業はあるのでしょうか。 シュナイダー 風力発電や太陽光発電の技術を開発している企業はたくさんあります。ただし、それとは別の問題がある。それらの再生可能エネルギーを活用するには、「スマートグリッド」と呼ばれる次世代電力網の整備が必要とされることです。それは一企業が単独で実行できることではありません。 オバマ大統領もこの問題を理解しているはずです。エネルギー省長官に指名したノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー博士らのアドバイスを受け、スマートグリッドの整備に乗り出すでしょう。しかし、それにも5年から10年はかかる。 いずれにしても、ベンチャーキャピタルに対して、何百社にも上る太陽光発電や風力発電の(クリーンテックと呼ばれる)ベンチャー企業に投資を促すだけでは、不十分であるのは間違いありません。
―― シリコンバレーの環境ベンチャー企業は、技術力の点で欧州や日本の先行企業に追いつき、追い越すことができるのでしょうか。 シュナイダー そうですね。残念なことですが、ジョージ・ブッシュ前大統領の下で米国は大きなチャンスを逃しました。彼が環境技術に対して熱心ではなかったからです。彼はオイルマン(石油業界の人間)で、プラネタリーシチズン(地球市民)ではなかった。 後れを取り戻すために、米国企業は技術開発を急がなければならない。もっとも、シリコンバレーのハイテク産業の技術レベルは、決してほかの地域に引けを取ってはいません。 特にシリコンバレーには常に、優秀な若い技術者やIT(情報技術)の研究者が集まってきます。だからこそ、依然として多くの起業家が、ここでハイテクベンチャー企業を立ち上げる。簡単にはいかないでしょうが、いずれは環境技術でもシリコンバレーの企業が必ず世界の先頭に立てると思います。 それに日本やドイツなど環境先進国の企業との競争は大歓迎です。競争を通して切磋琢磨してこそ、再生可能エネルギーの供給サービスの質が向上し、利用料金も下がっていくのですから。
―― グリーンニューディール政策には、家庭の電源で充電できる シュナイダー ブッシュ前政権の下では、ビッグスリーに燃費効率の高い車の開発・生産を促す政策が全く取られませんでした。それが、SUVのような大型車の生産に傾斜する一因になりました。 そして原油価格が急騰し、消費者はビッグスリーの大型車を買わなくなった。その結果、彼らが倒産の危機に瀕しているのは周知の通りです。もし10年ほど前に環境対応車の開発に乗り出していたら、こんな事態に陥ることはなかったでしょう。 ビッグスリーの中ではゼネラル・モーターズ(GM)が、プラグインハイブリッド車の「シボレーボルト」を開発。2010年に生産を開始する予定です。これは喜ばしいニュースですが、果たしてその価格やパフォーマンスはどうなのか。消費者の人気を集められるのか。発売されるまでは何とも言えませんね。 ボルトに続くプラグインハイブリッド車を開発するには、ビッグスリーは資金が不足しています。政府が直接に資本を注入するか、環境対応車にベンチャーキャピタルが投資するのを促す政策が必要でしょう。 ―― シリコンバレーのハイテクベンチャーでも、開発が難しい環境関連技術はありますか。 シュナイダー それは電池ですね。シリコンバレーの環境分野のハイテクベンチャーも、エネルギーを蓄電する技術の開発にはあまり熱心ではない。プラグインハイブリッド車に欠かせない大型のリチウムイオン電池の開発では、海外勢に大きく水をあけられています。
―― オバマ大統領は10年間で500万人の雇用を創出するという目標を達成できるでしょうか。 シュナイダー 議会が、民間金融機関やベンチャーキャピタルが環境関連の新興企業に出資を促す優遇措置を承認すれば、実現する可能性はあるでしょう。 幸い、私も住んでいるここシリコンバレーのハイテク産業の雇用市場は、ほかの産業ほどには、今回の経済危機によるダメージを受けていません。ハイテク産業のビジネスは堅調だ、と見られています。 それに今やシリコンバレーはIT企業ばかりが集積する場所ではありません。高度な再生エネルギーの技術を開発している企業がたくさんあるのです。そして、それらの企業は社員の数を増やしています。 500万人という数値目標まで達成できるかどうかは定かではありませんが、オバマ大統領は雇用を改善できると思います。
―― しかし500万人もの雇用を創出するには、技術者や研究者といった知的労働以外に、製造現場の職も生み出す必要はないでしょうか。 シュナイダー 石油メジャーの米シェブロンなどは、太陽光発電設備の量産に関心を示しています。しかし、彼らはこれまでは石油の供給に注力してきた。ですから、製造業のビジネスには精通してはいない。膨大な資金力がありますから、事業構造を転換できるかもしれませんが…。 ―― 製造現場の仕事が海外へアウトソースされる可能性もある。 シュナイダー 確かに、中国などへ再びアウトソースされる可能性は否定できません。ただオバマ大統領はそれを阻止したい、と考えているはずです。それには米国内で雇用を確保する企業に対して、特例的な優遇措置を取ることが必要になるでしょう。オバマ大統領は議会を説得してそれを実行する法律を成立させなければなりません。 法案に対しては、自由貿易に反するとしてWTO(世界貿易機関)が異議を唱える可能性もあります。しかし、オバマ大統領は聡明です。優秀なスタッフにも恵まれている。この問題への対応は、既に用意していると思います。どんな対策を打ってくるか。それは見ものですね。
―― オバマ大統領は地球温暖化ガスの国内排出量取引を連邦レベルで導入し、企業に割り当てる排出枠は、全量を「オークション(競売)方式」にして有償にするとしています。 シュナイダー そうした仕組みの導入は、非常に重要だと思います。私自身も1997年に京都会議に参加した時、炭素税や排出量取引による収入を環境技術の開発へと振り向ける「収入還元」の仕組みを作る必要性を繰り返し主張しました。残念ながら賛同を得られず実現はしませんでしたが。 環境を保護するために集められたお金は、そのための技術を開発している企業や技術者に直に投資され、環境に対する脅威を取り除く方法の開発促進につなげるべきです。人々には、ぜひそのような仕組みを受け入れる心構えを持ってほしいですね。 ―― これまで伺ってきたこと以外にも、オバマ大統領に期待することはありますか。 シュナイダー オバマ大統領は国際協調を重視する人、と私は見ています。ブッシュ前大統領の哲学にはなかったものを、オバマ大統領は持っている。彼は、他国と協調して各国の技術的な資源や財政資金を集約し、環境技術の開発のコストを引き下げると同時に開発のスピードアップを図るでしょう。 私はオバマ大統領が世界をリードして国際協調を作り出し、そのために自国の財政資金を拠出するだろうと楽観視しています。国内の雇用や内政を重視する労働組合や議会の議員たちからは強い反発を受けるかもしれない。 ですが、保護主義は彼のスタイルではない。必ず国際協調を推進するでしょう。それによって環境技術の開発や環境分野の雇用創出は加速するはずです。ただし、雇用の増加は米国内にとどまらない。世界中に広がることになるでしょう。 それがオバマ大統領に政治的なトラブルをもたらすかもしれません。そうであっても、彼が国際協調を進めることを期待しています。
■■オバマ大統領のグリーンニューディール政策■■ 「New Energy for America」の主な施策 ・太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる発電を2012年までに10%、2025年までに25%に拡大
米スタンフォード大学生物科学科と土木環境工学科の教授、同大学ウッズ環境研究所上級研究員などを兼任。1971年、米コロンビア大学で機械工学とプラズマ物理学の博士号を取得。その後、米航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙研究所で温室効果ガスと大気中の浮遊物質の役割について研究。72年、米国立大気研究センター(NCAR)の研究員に迎えられ、73年から96年まで同センターの科学者として研究に従事し、「気候プロジェクト」を立ち上げる。気候変動に関する研究やその政策分析の国際的権威として知られる。著書に『地球温暖化の時代─気候変化の予測と対策』(ダイヤモンド社)など。 PR |
|
コメント |
コメント投稿 |
|
trackback |
トラックバックURL |
忍者ブログ [PR] |