2024 11,24 11:34 |
|
2008 08,13 09:00 |
|
絵本で描かれている絵や文章は、とてもシンプルだが心に響く。大人が心を動かされる絵本を紹介しよう。 子供の時、親から絵本を読んでもらった経験のある人は幸せだ。 その体験のある人にとって、絵本は楽しみであり、喜びそのものだろう。あなたも自分の子供に、あるいは子供ができたら読んであげてほしい。子供にとってそれはかけがえのない思い出になるし、親としても心穏やかな貴重なひとときになる。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
その絵本が今、大人にこそ必要と言われ始めている。ノンフィクション作家の柳田邦男さんは、著書『砂漠でみつけた一冊の絵本』で大人にとって絵本を読むことはどういうことか、そして大人だからこそ発見できる絵本の読み方を分かりやすく説いている。 彼は25歳の息子を自殺で亡くし、しばらくの間、呆然とした日々を過ごしていた。ところがある日、書店で一冊の絵本を手に取る。『風の又三郎』だ。そこで彼は「荒寥たる砂漠をさ迷うなかで、突然緑にかこまれたオアシスに出会った」と絵本の素晴らしさに感動する。 この日から彼は、むさぼるように絵本の世界に浸っていく。 彼曰く、優れた絵本や物語は「人間のやさしさ、すばらしさ、残酷さ、喜びと悲しみ、生と死などについて実に平易に、しかも密度濃く表現している」と言う。
その柳田さんが感動して翻訳した絵本に『エリカ 奇跡のいのち』がある。ユダヤ人をガス室で大量虐殺したナチス・ドイツ時代を生き延びたある女性の物語で、命の尊さ、生きるということに対して、強烈なメッセージを与えてくれる。 主人公の母親は、生まれて間もない赤ん坊の彼女を、強制収容所に向かう列車の窓から外に放り投げる。二度と戻れない強制収容所に行くより、ほんのわずかの奇跡を願って…。 この極限の行為は、人の心を強く揺さぶる。ほとんど本能的と言ってもよい母親の愛のすごさに圧倒されるに違いない。 それにしても何と生きづらい世の中だろう。うまくいかないことの方が多いし、心配なことばかりだ。将来に夢や希望など持てないビジネスパーソンもいると思う。そういう人には、『だいじょうぶだいじょうぶ』をお薦めしたい。 この本は、小さな子供とおじいちゃんの物語だ。 主人公の子供が蛇や怖い犬に出合うたびに、おじいちゃんは「だいじょうぶ だいじょうぶ」と言ってくれる。車がぶつかってきたり、飛行機が落ちないかと心配になるたびに手を握り、「だいじょうぶ だいじょうぶ」。
出合った時の衝撃が強烈だったのは、『月 人 石』だ。書と写真と文のコラボレーションが多くのものを与えてくれる。この絵本は、毛筆で書かれた13の書から目を離せない。力強く、大きく、豊かで、優しい。 こんな書を見たのは初めてだった。書いているのは、小さい時に脳性まひで身体が不自由になった乾千恵さん。元気がない時は「馬」、イライラする時は「石」、寂しい時は「山」の字を見るといい。 「風」を見るとさわやかになるし、「火」を見ると心が落ち着く。「人」の字の横には乾さんの後ろ姿が写っている。そこからは、書に挑む緊張感が伝わってくる。 一日中仕事で駆けずり回ってへとへとになった日は、疲れ切っているのに体はほてって落ち着かない。 そんな夜には、『よあけ』を読むといい。音もなく静まり返っている湖のほとり、毛布にくるまり寝ているおじいさんと孫。動くものがない世界に、やがてそよ風が吹き、さざ波が立つ。夜明け前に2人は起き、ボートを湖に漕ぎ出す。寒くて暗い夜がうっすらと明けて一面に輝く緑の世界が広がるページを開いた時、疲れ切った心と体が癒やされていくのを感じることだろう。 私の一番好きな絵本も紹介しよう。『木を植えた男』だ。テレビを見ても新聞を見ても、自分たちの利益しか考えていない会社や勝手なことばかり言っている人ばかり。こういう話題に囲まれてほとほと嫌になった時に、私はこの絵本を開く。 何十年も昔、フランスのプロバンス地方の誰も足を踏み入れていない山深い荒野。辺りの村に住む人々は、いがみ合い自殺と心の病が流行っている。そんな山奥の誰の土地かもしれぬ廃墟に、毎日木の種を植え続けている老人がいた。ある時は、1万本ものカエデの苗が全滅した。妻子に先立たれた孤独な人生を歩むこの老人は、何かためになる仕事をしたいと言って、この気の遠くなる作業を始めたという。 数年後、彼の仕事は実を結んだ。その土地は広大な林になり、干上がっていた場所には小川が流れ、花畑が生まれた。そして近隣の村々には、生気と安らぎが満ち溢れた。しかし、1万人を超える村人たちは、老人の偉業を誰も知らない…。 たった一人の男が成し遂げた神の行いにも等しい創造。彼の不屈の精神、心の寛大さ、たゆまない熱情、名誉も報酬も求めない奥ゆかしいその行いに、人間の素晴らしさを称えずにはいられない。 絵本は確かに子供だけのものではない。優れた絵本には奇跡の力がある。今、奇跡が必要なのは大人なのかもしれない。
text by 久住邦晴(くずみくにはる)久住書房店長 1951年、札幌市生まれ。札幌にある書店「くすみ書房」の店長。北海道書店商業組合の理事長。「中学生はこれを読め!」などの独自のコーナーが話題を呼ぶ。 PR |
|
コメント |
コメント投稿 |
|
trackback |
トラックバックURL |
忍者ブログ [PR] |