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2008 05,31 14:00 |
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スタグフレーションが現実に! 「利上げ」を躊躇する時間は無い DIAMOND online 町田徹(ジャーナリスト)2008年05月30日 ついに最悪のシナリオだったスタグフレーション(景気後退下での物価の上昇)が現実味を帯びてきた。原油価格が史上初めて1バレル135ドルを記録するなど、原油・資源市況の高騰が勢いを増し、製品・サービス価格への転嫁が進み始めたのだ。こうした物価高騰は、個人消費や設備投資の冷え込みリスクをこれまで以上に助長する。 何より深刻なのは、サブプライムローン問題に端を発した金融危機対策という側面があるとはいえ、米政府が引き続き巨大な流動性の供給という手法を取り続けると、それに新たなエネルギーを得た投機が猛威を振るう結果を招き、資源価格の高騰とインフレーションを加速し経済の足を引っ張るという悪循環を助長することである。 悪循環を絶つために有効とされる処方箋は、まず、利上げという薬を用いてインフレの根を絶ち健康体を取り戻すことだ。それから、景気の回復という懸案に取り組むという手順が肝要と言える。利上げは非常に苦い薬であり、強い反発が予想されるのは事実だ。多くのエコノミストはもちろん、各国の中央銀行も、その必要性を積極的に認めようとすらしない。しかし、世界経済が健全な成長軌道を取り戻すためには、米国だけでなく、国際社会として主要各国が協調して利上げを実施する以外に道はない。苦い薬を嫌って先送りを続ければ続けるほど、事態は深刻化し、予断を許さなくなる。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
原油価格の高騰は、とどまるところを知らない。ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物取引市場で指標となっている米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)7月物は、5月6日、1バレル当たり122ドル73セントと歴史上初めて120ドルの大台を突破したばかりにもかかわらず、22日にはさらに上昇し、ついに1バレル当たり135ドルを記録した。 原油価格は2001年12月から翌2002年1月にかけて1バレル当たり18ドル台と最近の底値を付けたあと、右肩上がりの値動きとなり、2006年夏に同75ドルを上回る高値を付けた。その後は同50ドル割れがあり、「実需からみた適正価格は1バレル当たり50~60ドル」(銀行系シンクタンクのエコノミスト)との評価が広がった。ところが、昨2007年には再び上昇に転じ、年間の平均が1バレル当たり72ドルで推移した。そして、今年に入って上げ足を加速、1月2日に初めて1バレル当たり100ドルを記録したのだ。 こうした今回の原油先物市場の高騰には、大きな特色がある。1990年代にアジア危機やロシア危機を引き起こしたとされるのと同じ国際金融市場を駆け巡る投機マネーが“主犯”と目されている点である。投機マネーは、2000年の米ITバブル崩壊後に行われた大量の流動性供給によってパワーアップし、サブプライムローン問題に象徴されるような米不動産市場や米債券相場のバブルを引き起こし、これらの市場のバブルが破裂した後、新たな投機先を求めて、その一部が取引規模の小さな原油先物市場に流入して猛威を振るったというのである。 一連の原油相場の上昇過程で、何かと話題になったのが、お馴染みの米証券会社大手のゴールドマン・サックス証券だ。原油先物市場では「2006年までの上げ過程を主導した」(ファンドマネジャー)とされ、「その沈静化を狙って、現役の同社のトップだったヘンリー・ポールソン氏が財務長官に起用されたのではないか」(ワシントンのロビイスト)といった見方が出た。一方、今月の高値更新の局面では、「ゴールドマン・サックス証券が5月5日に、『6-24ヵ月以内に(1バレル当たり)150-200ドル』との予測を出したのを機に上昇ピッチを早めた」(経済紙)と報じられた。 ヘッジファンド関係者たちが、米議会証言で攻撃の矛先をかわそうとして、原油先物相場の上昇の原因を「中国やインドの実需が膨らんでいるし、(ヘッジファンドなどの投機資金だけでなく)年金基金などの組み入れも増えている」と反論したことも、大きく報じられている。しかし、「1バレル当たり135ドルという高水準で、採算が取れる産業など存在しない。投機の行き過ぎは明らかだ」(市場に詳しい経済学者)。
インフレを招くのは、原油の高騰だけでない。新聞報道によると、国内でもすでに、新日本製鐵、JFEなど鉄鋼大手4社が、石炭や鉄鉱石の値上がりを理由に、トヨタ自動車から、鋼材価格を1トン当たり2万8000円引き上げることの合意を取り付けた。これにより、鋼材価格は初めて1トン当たり10万円の大台に乗る見通しだ。 さらに、鉄鋼大手各社は、他の自動車メーカーにも値上げの受諾を求めており、自動車業界の負担増は国内分だけで5000億円、海外分も含めると1兆円に及ぶという。鉄鋼会社は、3兆円前後というコストの増大の8割前後を値上げで吸収したい考えで、建設、機械、家電などのメーカーに対しても値上げの受け入れを働きかけている。 自動車、建設、機械、家電などの業界にとって、こうした大幅なコスト増のすべてを生産合理化などで吸収するのは困難であり、今後、最終製品の値上げが相次ぐ見通し。つまり、インフレが広い範囲で加速するのは必至の情勢だ。 だが、昨年春から秋にかけて、サブプライムローン問題の深刻さが次第に鮮明になり、経済の減速とインフレの拡大というリスクが顕著になっていたにもかかわらず、FRB(米連邦準備理事会)が流動性の供給というインフレを誘発するリスクの高い政策を取り続けた。その一方で、サブプライムローン問題で自己資本が毀損した金融機関に対する公的資金投入による自己資本充実という施策を、ブッシュ米政権が一向に採ろうとしなかった。 こうした米経済政策を放置すると、今後、益々、本格的なスタグフレーションのリスクは増大する。 それにもかかわらず、日本政府や日本銀行を含む各国政府・中央銀行は、過去のG7(主要7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)などの場で、米政府に政策変更のコミットメントを取り付けることに失敗し続けてきた。スタグフレーションのリスクが存在すること自体にさえ、積極的な発言を控える風潮が続いてきたのである。
そうした中で注目されたのが、最近の白川方明日銀総裁の発言だ。5月22日の参議院財政委員会での証言でも、スタグフレーションという言葉こそ使わず慎重な言い回しだったものの、「足もと減速感を強めている米国経済の先行きも含め、引き続き、世界経済の下触れリスクが高い状態が続いています。一方、原油価格をはじめとする国際商品価格の高騰が続いており、世界経済のインフレ方向のリスクも高まっています」と両面のリスクの存在を認める姿勢に転換し始めたからである。 だが、白川総裁は、先行きの施策となると、まだまだスタンスが定まっていない。「予め特定の方向性を持つことは適当ではない。経済・物価の見通しとその蓋然性、リスク要因を見極めた上で、それに応じて機動的に政策運営を行っていく」と述べるにとどまっているからだ。 こうした中で、2005年までブッシュ米政権の財務次官職にあり、物価、経済成長率から適正な政策金利を導く「テーラー・ルール」で有名なジョン・テーラー米スタンフォード大学教授が28日、日銀金融研究所主催の会合で行った講演は注目に値する。新聞報道によると、テーラー教授は、「米国をはじめ各国中央銀行の過度の金融緩和が最近の世界的なインフレの一因」と現状を分析したうえで、「インフレ時には物価上昇率を上回る政策金利の引き上げで、実質金利を上昇させるのが望ましい金融政策だ」との処方箋を描いたからである。 万人に受け入れられやすい利下げと違い、利上げはどんな時でも反対の動きが強い。特に、世論の支持率を失いたくない政権や、中小企業票の獲得を狙う議員の多い議会は、利上げ反対派の集団と化すことが珍しくない。しかし、「良薬は口に苦し」である。テーラー教授が指摘したように、「世界経済をインフレ無き成長」という正常な軌跡に戻すため、利上げは避けて通れない。 PR |
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