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2008 04,24 15:00 |
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FINANCIAL TIMES 2008年4月24日 木曜日 放置すれば、企業経営を圧迫 タンザニアの都市ダルエスサラームのスラム街に暮らす人々は、容器で買う水に1000リットル当たり、英4ポンド相当のカネを払っている。同じ町でも、裕福な家庭には水道が引かれ、同量の水が17ペンスで手に入る。英国では81ペンス、米国は34ペンス程度だ。 他国のデータからも、人類に不可欠な水を最も高く買っているのが最貧困層であることが裏づけられる。世界中で水不足が深刻化しており、約10億人が上水を手に入れられず、26億人が衛生的なトイレを利用できない。英慈善団体ウオーターエイドによれば、水が原因の病気で毎日5000人の子供が死ぬ。 国連開発計画(UNDP)によると、安全な飲料水を得られない人を半減させるには約100億ドルかかるが、実現すれば、世界経済は年間380億ドル拡大するという。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
最大の問題は、水の適正価格をどう定めるか、だ。貧困層が安全な水にアクセスできない一部の国では、ほかの住民は補助金のおかげで安く水を使えるために、水を浪費していたりする。 発展途上国に限った話ではない。スペインの農家は水にかかる実費の推定2%しか払っていない。米カリフォルニア州中部のコメ及び小麦農家は州の水の5分の1を使うが、その料金は格安で、年間推定4億1600万ドル(2006年実績)の補助金が出ている計算だ。 「水の料金は公正でも現実的でもない。そのために人々は水が永遠に無料であるかのように使っている。水不足の原因はここにある」。食品世界最大手ネスレのCEO(最高経営責任者)、ピーター・ブラベック氏はこう指摘する。
同氏はさらに、水資源の節約と適正な分配に取り組まない限り、企業は水の確保に苦しむことになると警告。唯一の解決策は市場原理の導入だと主張する。水の無駄遣いを防ぐには、適正で現実的な価格設定が必要だという。 ネスレが水問題に取り組んでいるのは、善き企業市民を目指す活動の一環だ。かつて同社は途上国で粉ミルクを売り込み、汚染された水で溶いた粉ミルクを飲んだ乳幼児が死んだ。活動家は母乳を与えていれば避けられた事故だと訴え、一部消費者の間で30年に及ぶネスレ不買運動が起きた。 不適切な価格のせいで生じる最大の問題は、「仮想水(食糧や工業品の生産に使われた水)」の取引に見られる。水不足の国が農産物や工業品の輸出を通じて水を大量に輸出しているのだ。 穀物輸出国オーストラリアの仮想水輸出量は世界最大。7年間渇水に苦しんだ同国の農家は世界一効率的に水を使うようになったが、これほど水の少ない国が輸出用の灌漑作物の栽培を手がけることに意味があるのか疑う向きもある。 消費者は仮想水取引にあまり気づかないが、多くの商品の価格は、その生産過程で使われた水が非常に安いことを示している。英非営利団体ウオーターワイズによると、安いジーンズを1本作るのに最大1万1000リットルの水が使われる。1ドルしないハンバーガーには2400リットル以上の水が必要だ。 農業用水は直接・間接的に国の援助を受けていることが多い。そのため農家にとって水は「非常に安い」(UNDPのアンドリュー・ハドソン氏)。これが深刻な問題を招いている。UNDPの推測では、インドの一部地域で地下水面が年間1m以上下がっており、将来の農業生産を危うくしている。 農業以外でも、補助金などを受け、水を無料あるいは安く確保している産業がある。UNDPはこう結論づける。「水の管理は今、借金で散財するのと同様の無謀で持続不可能な様相を呈している。補給率で測ると、各国は保有量以上の水を使っている」。このため将来の問題が積み上がる。世界人口は現在の67億人から2050年には90億人に増えると予測されている。 では、どうすれば水を適正価格にできるのか。非政府組織の多くは、水を基本的人権としてとらえるべきだと考え、料金引き上げに不信感を抱く。 ウオーターエイドの政策担当ヘンリー・ノースオーバー氏は、一部の途上国では水の統治組織が未熟であるため水に価格をつける試みが妨げられていると言う。「安定した国家機関と有効な政治体制があって初めて、価格設定が供給規制の手段として機能する」。 ハドソン氏は、特定の条件が満たされれば価格は適正になり得ると考える。「1日の生活に最低必要な水20リットルを供給する仕組みは不可欠だ。そのために国は補助金を適切に使い、水へのアクセスを構築する必要がある」。 大半の国が水の価格を規制しているが、“誤った補助金”のせいで適正価格に落ち着かないことが多い。そこでブラベック氏が代案として提案するのが、水利権の市場取引だ。 彼はこの構想を、欧州の二酸化炭素の排出枠取引になぞらえる。キャップ・アンド・トレード(C&T)方式で企業に排出枠を課し、過不足分を売買させるこの制度を水に導入すれば、企業や農家は一定量の水の使用権を認められる。割当量より多く使いたい時は取引市場で権利を買わねばならない。 何も新しい構想ではない。オマーンの砂漠の民は何千年も前から水の利用権を取引してきた。最近ではネスレの故郷スイスの一部地域で、各農家が用水路から使用する水量を定め、栽培作物に応じて権利を売買しているという。 米慈善団体、環境防衛基金のフレッド・クルップ代表はこの構想を熱烈に支持し、今年1月のダボス会議で「C&Tのような市場ベースの手段が適切に設計・運用されれば、水問題の解決にも役立つ」と語った。
だが、水利権取引には法律上、政治上の障害があると国際環境開発研究所のジェイミー・スキナー主任研究員は言う。例えばスペインでは、農家は水を所有していないため、水利権を土地所有権から分離しないと取引できない。また、「取引をうまく進めるためには水資源の民営化がある程度必要だが、これは政治的に難しい」(同氏)。 クルップ氏は克服すべき法的問題や統治上の問題、既得権益が存在することは認める。厄介なのは農業ロビー団体だ。水利権に関し、農業部門は大半の国で最も優遇されており、ほかの産業より水に払う料金が少ないからだ。 「コスト効果が高く、大金が利権団体に入らないような形で水利権取引市場を創出するには、課題がたくさんある。水の移送が農村や低所得層、環境を傷つけないよう気をつける必要もある。水のC&T制度には厳格な監視と執行が必要だ」。クルップ氏はこう言いつつも、「問題は十分対応可能であり、既に対策に取り組んでいる」と胸を張る。 水にC&T方式を導入するには、排出枠取引とは異なる障害がある。排出枠取引は仮想で、企業は温暖化ガスの排出枠を取引するのであり、実物を売買するわけではない。だが、水は重いうえに長距離移送が難しい。 長距離でも可能な輸送手段は容器に詰める方法だが、これはコスト高で環境にも優しくない。従って水利権取引は水源を共有する狭い地域限定で実施されることになるだろう。スイスなどの例が示すように、公正な取引を保証する統治機構があり、それを遂行する強い政治的意志があれば、地域限定の水利権取引制度は構築できる。 企業は水の価格上昇と規制強化に備えるべきだとブラベック氏は言う。「水への支払いは増えるが、それは正しいあり方だ」。多くの企業はその場合、水道会社や官僚に勝手に値上げさせるよりは水利権取引を選ぶと彼は見る。 「(企業にとって)水の確保を確実にすることは、健全な経営環境につながる。そのためには市場原理と保全が最もコスト効率の高い選択肢だ」とクルップ氏は断言する。水に不当に高いカネを払っている貧困層のためにも、一刻も早い適正価格の実現が待たれる。 Fiona Harvey PR |
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