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2008 04,22 17:16 |
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BusinessWeek 2008年4月22日 Michael Orey (BusinessWeek誌、企業取材担当) その男は米ベアー・スターンズ破綻劇の最中に自分と顧客を守った 米証券大手ベアー・スターンズ(BSC)が破綻の瀬戸際に追い詰められた3月15日から16日にかけての週末、1人の花形ブローカーがベアーのボストン支店からの脱出を企てていた。 米連邦準備理事会(FRB)と米銀大手JPモルガン・チェース(JPM)がベアー救済に乗り出していた最中だが、ベテランブローカーのダグラス・A・シャロン氏(50歳)は事の成り行きを静観するつもりなどなかった。 監視カメラには、ボストンのダウンタウンにあるベアーの社屋から荷物2箱を持ち出すシャロン氏とアシスタントの姿が映っていた。その少し前までシャロン氏は、不安に駆られた何十人もの顧客に電話をかけ、支店の幹部らと事態の収拾に努めていた。「あの週末、当支店は“サイゴン陥落”のようだった」とボストン支店のあるブローカーは言う。 ベアーはシャロン氏を訴え、彼が混乱の最中に違法な背信行為を行ったと主張した。企業秘密である顧客の口座情報を盗んだばかりか、大口顧客をさらっていったというのである。シャロン氏は違法行為を否認。顧客の状況を見極め、優先順位をつけて対応するために行ったことで、背信行為ではないと主張した。裁判所はベアーの申し立てを棄却した。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
今後は調停で決着がつくまで争う。しかし、ベアー側は既に打撃を受けている。ベアーとJPモルガンが顧客引き止めに躍起になる中、シャロン氏の顧客約90人のほぼ全員と約10億ドルの資金は、シャロン氏の新しい勤務先である米モルガン・スタンレー(MS)へと移っていったのだ。 法廷闘争の書類や証言からは、ベアーが実質破綻に至るまでの数日間の貴重な舞台裏がうかがえる。従業員も顧客も、できるだけ多くのカネを持って逃げ切ろうと慌てふためいていた。 ベアーは「従業員が契約上の責務を確実に果たすよう適切な措置を講じている」と述べている。JPモルガンはコメントを避けた。 20年以上前、シャロン氏を競合証券会社から引き抜いたのは、ほかでもないジェームズ・ケイン会長(当時は共同社長)である。両者は最初の面接の時から意気投合した。ケイン氏は面接を済ますとそのまま、参列を予定していた葬儀にシャロン氏を同行させたほどだ。2008年までに、シャロン氏はプライベートバンキング部門でトップクラスの成績を上げるまでになり、約10億ドルの資産を運用して、年間で500万ドル以上の手数料を稼いでいた。 シャロン氏の仕事上の目標は、顧客の資金の安全性を保つことだ。低リスクの社債や国債に投資する債券専門家である同氏は、「(顧客の)資金を鉄壁の守りで運用する男」と自称している。 かつてボストン周辺で製造業を営んでいて現在フロリダ州のパームビーチガーデンズに住むアラン・リッチー氏(67歳)も引退後、資産のかなりの額をシャロン氏に任せてきた。「私は非常に保守的だ。事業を売却後、残った資産の運用で良い利回りを得られれば、それで十分だと考えた」。
2004年、シャロン氏は顧客の資金の一部を、ベアーの新しいヘッジファンドに投資した。その名もずばり、「ハイグレード・ストラクチャード・クレジット・ストラテジーズ・ファンド」という、住宅ローン担保証券(MBS)を保有するファンドだ。きわめて安全だとベアーが宣伝していたこのファンドは、シャロン氏のリスク回避戦略にぴったりの投資先と思われた。 投資家向けの会議で共同ファンドマネジャーが、ファンドのポートフォリオを銀行口座に例えたこともあった。シャロン氏は顧客の資産約6000万ドルと、自身の50万ドルをこのファンドと関連の別ファンドにつぎ込んだ。 だが蓋を開けてみれば、この2つのヘッジファンドは、高リスクのサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)関連証券の“廃棄場”だった。昨夏、両ファンドが破綻し世界的な信用危機を招いた時、シャロン氏と顧客はファンドへの投資の大半を失った。激怒したシャロン氏は、経営陣に会うため直ちにニューヨークの本社へ飛んだ。顧客は怒っており、ベアーから去るだろうとシャロン氏は警告した。 シャロン氏の予言は的中。昨年秋には、シャロン氏の顧客数人がベアーから資金を引き揚げた。苛立ちを募らせたシャロン氏の回答によれば、同氏は直属の上司にこう述べた。「ベアーの対応には不満がある。ベアーはヘッジファンドの破綻で損失を被った顧客の怒りを静めるために十分な措置を取ろうとしていないようだ」。
結局、シャロン氏はモルガン・スタンレーに転職を決めた。当初は4月下旬に入社する予定だったが、3月中旬、ベアーが危機に陥ると、転職を早めることに決めた。 3月12日、ベアーのアラン・シュワルツCEO(最高経営責任者)は、ウォール街に広がる不安を抑えるため米CNBCテレビの番組に出演し、「現金は潤沢に確保してある」と強調した。だがこの発言は一部の投資家の間にパニックを引き起こしただけだった。 裁判所に提出した供述書の中で、シャロン氏は、シュワルツCEOのテレビ出演の数日前から顧客から電話攻めに遭っていたと述べた。フロリダに住むシャロン氏の妻の両親から氏の携帯電話番号を聞き出そうとする顧客もいた。シャロン氏の顧客の1人は匿名を条件に、ベアーから約200万ドル引き揚げたと語った。「(シャロン氏に)電話してこう言った。いろんなうわさが耳に入ってくる。リスク回避のために資金の一部を引き出したい、とね」。 状況は急激に悪化した。シャロン氏の供述書によれば、FRBがベアーの緊急救済措置を発表した3月14日金曜日、「パニックに陥った投資家から、すぐにベアーから資金を引き出せという電話が殺到した」。 だが資金を引き出すことはできなかった。その日、シャロン氏は1億ドル以上の資金の引き出し申請をしたが、「全額は引き出せなかった。ベアーの現金が底をついた」(シャロン氏の供述書)。同日、顧客は総額で120億ドルを引き出そうとしたが、ベアーの手元資金は50億ドルしかなかったとベアーの現金出納係はシャロン氏に語った(シャロン氏の別の供述書)。
シャロン氏はその週末、どの顧客への送金が失敗したかを把握し、顧客の不安を和らげようと努めた。アルファベット順に顧客に電話し、最後、“V”で始まる名前の顧客への電話が終わったのは日曜の深夜だった。シャロン氏は供述書で、独自の判断で行動したと述べた。「危機の最中、顧客にどう説明したらよいか、会社がどうなるかなど、経営陣からの助言は一切なかった」。 ボストン支店の別の従業員は「まるで誰かが死んだばかりのように涙にくれている50代の社員もいた」と振り返る。そんな中、シャロン氏は不安と憤りに駆られた顧客からの電話に対応し続けた。 フロリダ州で引退生活を送るリッチー氏は「妻と私にとって試練の週末だった。全額を失うという考えが何度も頭をよぎった」と語る。 ベアー側の証言からも、その週末の支店の混乱ぶりをうかがい知ることができる。ベアーの供述書によれば、監視カメラには、多数の営業担当者と打ち合わせするシャロン氏の姿が映っていた。「金曜の夜から土曜の夜の間に、ボストン支店では何千もの顧客の口座明細書が印刷され、支店の印刷用紙が全部なくなった」と支店長のリカルド・S・ペナフィエル氏は供述書の中で述べた。さらにペナフィエル氏は、その週末、自宅で「履歴書を書いていた」と4月上旬に証言した。 シャロン氏をはじめとする従業員は日曜の夜遅く、翌日に何が起こるかも分からず、茫然自失の状態で職場を後にした。「破算裁判所の判事に閉鎖を命じられるかもしれないと思った」とボストン支店の従業員は言う。
ベアーの破綻劇は3月17日の月曜日も続いた。その日、JPモルガンはベアーを1株当たり2ドルで買収するという当初案に合意した。ボストン支店には全国の顧客からの電話が殺到した。つい前週には70ドルだった株価が3ドル未満に下落し、状況は悪化する一方だった。多くの従業員は退職後の備えの大半をベアーの株式で持っていた。「まるでゾンビ映画のようだった。顧客が助けを求めても、助ける側のベアーの従業員の方が破産していた」(ボストン支店ブローカー)。 同日遅く、シャロン氏はペナフィエル支店長に辞表を提出した。そこには「残念ではありますが、ベアー・スターンズの現状に鑑み、ただ今限りで辞職します。私の顧客には、転職先のモルガン・スタンレーに連絡するよう伝えてください」と書かれていた。モルガン・スタンレーの広報担当者は、シャロン氏を迎えることができて「光栄だ」と述べるにとどめた。 ベアーはこの騒動の中、自社が競合他社の標的になっていると訴えている。「モルガン・スタンレーなどベアーの競合会社は混乱に乗じ、当社のブローカーを高い報酬で引き抜こうとしている」とシャロン氏に対する申し立ての中でベアーは述べた。
シャロン氏の退職差し止めにベアーが動いたのはそれから10日後のことだった。数々の「悪意ある行為」に携わったとしてシャロン氏を提訴。訴状の中で、監視カメラのビデオテープ、コンピューターの記録及び内部調査結果から、シャロン氏が大量の機密書類を印刷したことが分かると述べた。さらに、辞職する90日前にその旨を会社に通知するという契約事項にシャロン氏が違反したと主張した。 3月27日、ボストン連邦地裁のナサニエル・M・ゴートン判事は、ベアーの要求に応じてシャロン氏のモルガン・スタンレーでの就業を一時的に差し止める命令を下した。 だがその1週間後、ゴートン判事は差し止め命令延長の要請を退けた。4月4日の判決で判事は、転職を差し止めた場合、シャロン氏が「経済が混乱している時に、顧客に助言を与えられなくなる」と述べた。また、シャロン氏が顧客やベアー従業員を不正に勧誘した証拠はないとした。 ベアーはこの訴訟を調停に委ねる予定だ。だが主張が認められたところで得るものは少ない。仲裁人は、辞職の事前通知義務の条項に従い、シャロン氏のモルガン・スタンレーでの就業開始を3カ月遅らせることができる。しかし、シャロン氏の顧客をベアーに戻すことは誰にもできない。 シャロン氏の元に残った顧客は、危機的状況における同氏の冷静さに感心したという。シャロン氏の顧客であるボストンの弁護士、ヘンリー・バー氏は供述書の中で、3月18日にJPモルガンの担当者から、ベアーの口座をJPモルガンが引き継ぐ件で連絡があったと述べた。 だがバー氏はシャロン氏との関係を継続することにした。シャロン氏が「ベアーが不安定で混乱していた時期に非常にうまく立ち回った。私の資金は安全確実に守られていることを、度々思い出させてくれた」からだという。3月19日、バー氏は資金をモルガン・スタンレーに移した。 リッチー氏も同じことをした。「私はモルガン・スタンレーの客になったが、本当はシャロン氏の客なんだ」。 © 2008 by The McGraw-Hill Companies, Inc. All rights reserved. PR |
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