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Jパワー株買い増し拒否は当然 DIAMOND online 2008年04月18日 町田徹(ジャーナリスト) 「伝家の宝刀を抜いて、一件落着させた」という風にすっきり解決できていないのが、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCIファンド)によるJパワー(電源開発)株の買い増し計画に端を達した騒動だ。 日本政府は16日、「外国為替及び貿易法(外為法)」の規定に基づき、「公の秩序を乱す恐れがある」ことを理由に、初めて同法の外資規制を発動。現在9.9%の発行済み株式を保有するTCIに対して、Jパワー株の20%までの買い増しを中止するよう勧告した。 だが、期限である今月25日までに、TCIファンドが応諾するかどうかが定かでない。もしTCIファンドが拒否すれば、日本政府は中止命令を出せる。が、それを無視して、同ファンドが株式の取得に動いた場合、外為法には、科せるかどうか疑問の残る非居住者への刑事罰規定が記されているだけなのだ。株式の取得自体を強制力を持って止める手立ては存在しないし、買われてしまった株式を強制的に売却させて現状を回復する規定も存在しない。つまり、実効性となると、外為法はおおいに疑義がある法律なのだ。
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まるでTCIファンドの代理人のような論調の大手紙各紙の報道ではほとんど見えて来ないが、Jパワーは、北海道、四国、九州と本州を結ぶ、それぞれ唯一の送電線網を保有する元特殊法人だ。東日本と西日本で異なる電気の周波数を変換する装置は同社だけが持つものだし、世界初という特殊な原子力発電の開発も進めている。他に代替性のない社会インフラを抱えるユニークな企業なのである。 今回の騒動で、政府が批判されるべきことがあるとすれば、それは5年前の同社の民営化だろう。メディアが「いくら自由化が時代のニーズだったとはいえ、ロクな買収策も講じておらず、あまりに安易過ぎた」と糾弾するならば、頷ける話と言える。
はっきり言えば、Jパワー株の買い増し問題の教訓は、こうした社会インフラに対する日本の防衛法制がなんとも脆弱であることを浮き彫りにした点にある。 今回のTCIファンドは、たまたまガイシだったから外為法で防衛ができた。これは、ある意味でラッキーなことだったのだ。もし、内資の不心得者がJパワーに食指を動かしていたら、外為法はまったく無力である。日本では、いきなり北海道や四国、九州の電気代が急騰するような悪夢がないと言いきれない状態が放置されているのである。 こうした脆弱さは、程度の差こそあれ、東京電力、関西電力、中部電力のような電力会社のほか、ガス、地域通信、航空会社などにも共通の問題だ。グローバル化の時代を迎え、投機によって原油、金、穀物などの商品価格を急騰させた巨大マネーが、いつ、こうした日本のインフラを標的に動きだしても不思議はない。新聞の論調に騙されてはいけない。むしろ、積極果敢な抜本策こそ必要とされているのではないだろうか。 メインの所管は財務省ながら、様々な官庁が共管している外為法。その外為法が規定している外資規制の初適用らしい風景だったのは、16日の午後3時に、政府がTCIファンドを呼び勧告した場所が、JR東日本の神田駅に近い日本橋本石町にある、あの日本銀行だったことである。そう、日銀も外為法を所管する組織の一つだからだ。 一見すると、この外資規制の初発動は、前日の関税・外国為替等審議会の外資特別部会(部会長吉野直行慶応大学教授)がまとめた意見に従って、手続きが迅速に淡々と進んだように見えた。 しかし、ここに辿り着くまでの内情は、まったく違っていた。関係筋によると、事前に根回しを受けた福田康夫首相は、閣内不一致騒ぎが起きるのは困ると気を揉み続けたという。そして、特定の大臣の名前をあげて、きちんと事前に根回しをして抑えておくように、と指示していたというのである。 福田首相の頭には、ほんの数週間前、外資から空港の食堂や駐車場を保護して、天下り先を確保しようとした国土交通省の陰謀が発覚し、数名の大臣が国土交通省に異を唱えた問題がこびりついていた。野党やメディアに「閣内不一致」と攻め立てられる悪夢を2度と繰り返したくないとの思いに捉われていたというのである。 甘利経済産業大臣と連名でTCIファンドに対する勧告を発した額賀財務大臣も、最後まで財務官僚の意向を反映していたのだろう。煮え切らない態度をみせる場面が多かったとされる。実際のところ、財務省は、金融・市場関係者に対し、TCIファンドに同情的な姿勢を洩らすことが頻繁にあったようだ。「念書を出させるとか、何か条件を付けることにして、投資自体は認めた方が対外摩擦を起こさなくてよいのではないか」などと主張して、Jパワー防衛の必要性を痛感していた経済産業省・資源エネルギー庁を辟易させたことも一度や二度ではないらしい。 もっとも、当の経済産業省・資源エネルギー庁でさえ、実は、こうした事態が発生するリスクに気が付いて、資源エネルギー庁長官を中心に対策のシミュレーションを始めたのは、ほんの1年ほど前のことだったという。舞台裏では、ギリギリの攻防が続いていたことになる。
今回、外為法にのっとって、Jパワー株を20%まで買い増したいと申請したTCIファンドの投資計画の是非を審議した外資特別部会の委員6人は、そろって冷静だったようだ。勧告前日に公表した意見をみると、そのことがよくわかる。 外資特別部会は、まず、海外から日本への一般的な対内直接投資について、「産業の生産性の向上と経済の効率化を促すもの。日本の発展のためにも、その積極導入が極めて重要」と指摘した。そして、日本は、昭和55年に外為法で対内直接投資を原則自由に転換しており、過去3年間をみても、「届け出があった約760件を含めて、すべてが認められてきた」と改めて明らかにしたうえで、今後も「開放された市場は維持されなければならない」との立場を明確にしている。 とはいえ、投資活動の行き過ぎによって「公の秩序の維持が妨げられるようなことがあってはならない」とも表明。こうした観点から、公共サービスを提供する基本的なインフラである電気事業については「OECD(経済協力開発機構)資本移動自由化コード」でも規制が認められていることに言及した。 そして、Jパワーが、(1)2400キロメートルに及ぶ送電線、特に北海道、本州、四国、九州をそれぞれ繋ぐ送電線を保有している、(2)東日本と西日本の電力融通を行う周波数変換所を保有している、(3)国の原子力・核燃料サイクル政策に重要な大間原子力発電所の建設を予定している――などといった点を列挙して、TCIファンドによる株式の追加取得には「これまでの諸提案を持ってしても、不測の影響が及ぶ可能性を否定できない」「公の秩序が妨げられる恐れがある」などと懸念を表明。政府として、TCIファンドのJパワー株買い増し計画を拒否すべきだと結論付けたのだ。 政府の中止勧告は、この外資特別部会の意見を踏まえたものにもかかわらず、新聞各紙では、その政府の対応を批判する論調が目立った。例えば、朝日新聞は17日付け朝刊で「対日直接投資拡大の政府方針に反するとの指摘が出ている」と報じ、日本経済新聞も同日付け朝刊で「透明性に課題残す」と伝えている。 しかし、筆者は、政府の対応や外資特別部会の意見は非常にリーズナブルなものであり、当然の措置と考えている。 というのは、外資特別部会が指摘したように、電力事業に対する外資規制の必要性が国際的に認知されているだけでなく、実際に欧米各国は、そうした措置をとっているからだ。新聞各紙が主張するようなこと、つまり、日本がJパワー株の買い増しを阻止すると投資環境の透明性が損なわれるとか、海外からの投資が減るなどといったことは考えられないのである。 いくつか例を挙げよう。以前にも、このコラムで紹介した、米国の「1988年包括通商法」の「エクソン・フロリオ条項」は有名である。同項は、必要に応じて、米財務省、国防総省、連邦捜査局(FBI)などの省庁をメンバーとする特別組織を召集する。外国企業による米国企業に対するM&A(企業の合併・買収)などを機動的に差し止めるかどうかの広範な判断を、この組織に委ねる仕組みだ。同条項によって、過去には、日本企業が米ハイテク企業を買収することが難航したり、断念に追い込まれたケースがいくつもある。2005年夏には、同条項が抑止力になって、中国海洋石油(CNOOC)が米石油大手のユノカル買収を断念せざるを得なかったケースもあった。 また、英政府は、原子力発電会社のブリティッシュ・エナジーを保護する観点から、他の株式に優先する権利を行使できる黄金株を保有している。さらに、フランスでも、政府が、同国の唯一の電力会社であるフランス電力公社(EDF)の発行済み株式の70%を保有し、はなから外資の投資を阻む万全の体制を採っている。
もちろん、筆者は、外資特別部会の意見や政府の対応に、まったく問題がなかったと断言するつもりはない。 その第一の理由は、今回、TCIファンドの申請を拒否すべき理由を、「公の秩序」に対する懸念の一つだけに絞ってしまったことにある。実は、外為法は、電力・ガス、熱供給、通信、放送、水道、鉄道、旅客運送について、「公の秩序」を揺るがす懸念がある場合、外資の投資を規制することがあると規定している。 が、外為法は、そのほかにも、武器、航空、原子力、宇宙開発、火薬類とこれらに関る部品について、「安全保障」の観点から、また、生物学的製剤製造業と警備業について、「公衆の安全」の観点から、外資規制をする可能性があると明示している。 今回争点となったJパワーの場合、青森県大間町に、原子力発電所の建設を予定しているので、安全保障の観点からも、TCIファンドの計画を拒否する必要性が高かった。それにもかかわらず、外資特別部会や政府がその点に言及していない問題が存在するのである。そういう点では、生温いのである。 ちなみに、大間の原発は、大間町の建設を求める請願が出されてから38年を経ながら、安全基準への適合性などに万全を期すために建設が遅れてきたものだ。が、導入を予定しているモックス燃料方式(全炉心でプルトニウムとプルサーマルを併用する方式)は、世界初のユニークな技術とされる。というのは、放置すれば、他に用途がなくて、世界的に核兵器の製造原料として放置されかねない“核のゴミ”の平和利用に道を開く最先端の技術だからである。 そして、第二の理由は、電源開発を、地域独占の電力事業の競争を促進する切り札として民営化する際に、他に代替性が乏しい社会的なインフラが、好ましくない経済主体に買収されるリスクに対する対応を怠ったことが挙げられよう。この点は、もっと厳しく批判されて然るべきである。 今回、買い増しを要求したTCIファンドは、2006年9月に、Jパワー株の4.57%を持つ大株主に躍り出て以来、すでに年間合計の配当を1株当たり30円多い90円にせよと迫るなど、Jパワーの長期投資よりも目先の利益を優先する主張を掲げてきた。2~3人の役員派遣を求めており、経営に関与しようとの意図も明らかだ。「Jパワー株投資では巨額の含み損失を抱えており、揺さぶれば、大手電力会社がJパワー株を高値で肩代わりしてくれると踏んで、買い増し要求を掲げたのではないか」(関係者)と勘繰る向きもあるほどだ。実際、欧州では、その投資手法が災いし、名立たる投資先企業と論争を繰り返してきた。そういう意味では、社会インフラを保有する企業の大株主として「好ましくない存在だ」(同)。 ところが、民営化当時、電源開発は、国際的な民営化の成功を狙って、積極的に海外の投資家の出資を募るIR活動を展開した経緯があるという。こうした行動が、TCIファンドのような投資家を呼び込む遠因になったというのである。 もちろん、政府保有株の売却に際しては、外為法や外資規制のリスクを開示する書面が開示されており、詐欺呼ばわりされるような行為はなかったはずである。 だが、当時、電源開発の幹部らと共に「海外からの投資を勧誘するために働いた」という米有力投資銀行の幹部は「本来、民営化自体が間違っていたのではないか。揉み手で勧誘に歩いたことを思い出すたびに赤面する」と述懐している。こういう安易さはおおいに反省すべきだろう。
最後になるが、代表者がインサイダー取引の罪に問われて一審で有罪判決を受けた村上ファンドのような内資のファンドが、Jパワーの大株主になろうとしたり、買収を意図した場合には、法的な防衛策が存在しないことは大きな問題だ。短期的な利益を求め、Jパワーの経営をズタズタにしかねないリスクを持つのは、外資のファンドだけとは限らない。ところが、外為法は、TCIファンドのような外資しか規制対象にしていない。 さらに、代替性が乏しく、守らなければならない社会的インフラは、通信、放送、航空、鉄道などの分野でも幅広く存在する。軽々に、それらの産業の業法において、細かく様々な行為規制を科す措置を採れば、時代遅れの護送船団行政の復活を招く懸念がある。だが、手をこまねいて、放置してよい問題ではないのだ。インフラ事業について、内外無差別で、「安全保障」「公の秩序」「公衆の安全」を満たす施策を確立できるかどうか。これは、日本国民全体が突きつけられた課題である。 PR |
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