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G7-金融危機回避の頼みの綱は民間金融機関同士の助け合い DIAMOND online 2008年04月15日 真壁昭夫(信州大学教授) G7会議の起源は、1975年、当時のディスカール・デスタン・フランス大統領が、米国、英国、西ドイツ、イタリア、わが国の5ヵ国の首脳を、ランブイエ宮殿に招いて首脳会議を行ったことだ。会議の席上、出席者によって、主催国を交代して定期的に首脳会議を行うことが了承された。翌年、当時の米国フォード大統領の要請によってカナダが加わり、G7の形式が出来上がった。G7会議では、各国の首脳陣に加えて蔵相・中央銀行総裁が集まって、経済・金融に関する議題を討議する場が設定されている。 G7会議は、時間の経過と共に、その重要性は低下傾向を辿っているとの指摘もあり、一部の専門家は、「会議の重要性低減の法則を示す好事例」との辛口の評価もあった。 しかし、今回のG7会議の様相は、今までとかなり違っている。昨年のサブプライム問題の表面化以降、世界的に金融システムに不安が発生しており、それを国際協調によって抑えることが至上命題になっているからだ。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
今回、G7会議の最大の焦点は、米国のサブプライム問題の表面化に続く、世界的な信用収縮や金融不安を抑える手立てを考えることだ。 昨年のサブプライム問題に端を発した金融市場の問題は、依然、燻り続けている。米国の大手証券会社ベアー・スターンズの事実上の破綻に際して、米国のFRBは証券会社へ直接、資金供給が出来るシステムを導入し、取り敢えず、3月危機を何とか乗り切ることができた。 しかし、それによって、金融機関が抱える危機的状況がすべて解決できたと見るのは尚早だ。 問題の元凶である米国の住宅市場には下げ止まりの兆候が見えず、むしろ、足許では価格下落率が拡大しており、今後も住宅ローンの延滞率は上昇することが予想される。そうした状況を考えると、住宅ローン担保債券(RMBS)や債務担保債券(CDO)の価格下落傾向が、直ぐに沈静化することは考えにくい。当該債券を保有している投資家の損失額は、さらに拡大することは避けられないだろう。 そうした状況に適切な対応策を講じないと、今後も、金融機関の破綻が発生する可能性がある。米国の政策当局には、そうした懸念を押さえ込むことに焦りの色がにじみ出ている。 バーナンキFRB議長が、「マーク・ツー・マーケット(時価主義)による金融資産の価格評価が、市場の不安を増幅している」と発言して、時価主義会計制度の見直しを提案したのも、そうした焦りの一端と見られる。FRBを初めとする米国当局は、事態をかなり深刻に受け止めており、住宅ローン担保債券などの不安を払拭する為には、可能なことは何でも実行したいという意向を持っているということだ。
金融市場の不安を和らげる為に、今回、シティーグループ、リーマン・ブラザーズ、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカの米国大手銀行・証券会社に加えて、日本のみずほFG、欧州のドイツ銀行など10社程度の首脳陣が会議の場に招待されている。これは、明らかに世界的な金融不安を解消する具体策を協議する意図があった。 それに伴い、金融専門家の一部からは、「会議の席上、米国から参加者に対して、今後、大手銀行等が経営不安に陥ったとき、その連鎖を防ぐために、民間の金融機関同士が、お互いに資金の貸し出し枠=クレジットラインを設定したり、迅速に、信用供与を行える具体的な体制つくりを要請したのではないか」との観測が出ているようだ。 これは、米国の当局が示唆する格好で、民間の金融機関が危機的状況に陥ったとき、政府などの公的機関に頼らず、民間金融機関同士が相応の負担を行い、事態が連鎖的に拡大することを防ぐ仕組みを作ろうとの考え方に基づくものだ。有体に言うならば、いざというとき、同業の民間金融機関を救済するために、一種の奉加帳=救済基金を作成することを意味する。 そうした方策は、世界の金融システムに瑕疵が生じると、その分野にいる民間金融機関すべてが苦境に追い込まれる可能性を考えれば、相応の説得力はあるだろう。実際問題、かつて金融システム不安の苦境に追い込まれたわが国を初め、他の国の例でも、そうした方策が実行された例は散見される。 一方、そうした対応策にはデメリットも存在する。1つには、その方策に参加する金融機関は、相応の経済的負担を強いられることになる。金融機関が民間企業である以上、収益を圧迫するような方策には参加しにくい事情はある。 また、そうした救済策の実効性に疑問符がつくことが想定される。連鎖的に危機的状況が拡大する場合、いくら大手とは言っても、金融機関の体力を考えると負担能力には自ずと限界がある。短期間に、そうした限界を越える事態の発生に対応することは困難といわざるを得ないからだ。
今回のG7で、米国がリスク回避のために奔走した背景には、米国一国で実行できる対応策に限界が露呈していることがある。FRBは、昨年来、既に金利を3.0%引き下げた。潤沢な流動性を供給する方策も大胆に導入済みだ。 また、減税の実施により、今後、各家庭に小切手が送付される。それらの対応策によって、最悪の事態は一旦、回避されたものの、まだ、金融不安の火種を完全に消し去ったわけではない。住宅市場の低迷が続き、実体経済にもマイナスの影響が顕在化し始めている。住宅ローン債券の市場は、依然、不安定な状況が続いているからだ。当該債券を抱える金融機関やファンドについては、今後も損失額が増加する可能性が高いという。 そうした事態を見ると、米国一人で実行できる対応策には、あまり大きな期待を抱けない状況に至っている。というよりも、今後も、米国が積極的な利下げを続けることには、高いリスクがあることを意識せざるを得ないところまで至っている。 というのは、米国一人が金利の引き下げを続けると、ドルが金利差によって売り込まれる可能性が高まるからだ。ドルに先安感が定着すると、今まで米国に流れ込んでいた投資資金が細ったり、既に流れ込んでいた投資資金が米国から逃避することが考えられる。それが現実味を帯びてくると、米国の株式や債券の金融市場は不安定さを増す可能性が高い。それは、米国にとって、大きな痛手になることにもなりかねない。 そうなると、米国だけの問題では済まされないだろう。主要国の金融市場にも、不安定さが伝播することも考えられる。主要国は、そうした事態の発生を避けるべく、危機回避に向けた具体的な対応策の策定を急がなければならない。
真壁昭夫 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。 PR |
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