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「株主判断型」買収防衛策が急増――安易な導入では株主は納得しない DIAMOND online 2008年04月11日 永沢徹(弁護士) ――「伝家の宝刀」は本来抜かないためにある 先日の報道で、企業の買収防衛策に大きな変化がおきているというニュースが流れた。2008年に入ってから新たに買収防衛策を導入した企業のうち、株主に賛否を問う『株主判断型』が全体の4割を占めているという。昨年の2割と比べると明らかに急増しているのだ。 昨年8月のブルドックソースの最高裁判決以降、買収防衛策を導入したかなりの企業が、「独立委員会+株主総会」というスキームであり、「独立委員会なしで、株主総会のみ」というものと合わせると過半数になっているのが現状だ。そういう点では、株主の意思を確認するという手続きを経ることが1つの流れになっている。 一方、すでに買収防衛策を導入している企業が、今後どのように変化していくかはまだわからないが、取締役会の決議をもって対抗措置を発動するという事前警告型の買収防衛策を発表している企業も、株主総会で株主の意思を確認しないというわけではない。少なくとも株主の意思確認をしたほうがいいと思えば(もっと率直に言えば、賛同が得られる可能性が高ければ)、念のため株主総会で議案としてかける場合もある。 しかしもう一方では、そもそも、株主総会の議案として成立するのかしないのか、という議論もある。本来であれば、会社法上の定款に「買収防衛策の案件について株主総会で株主の判断を仰ぐ」という条項を入れておけばいいわけだが、定款変更をする際には株主の3分の2の賛成が必要となるため、結構ハードルは高い。そういった定款変更をしていない状態で、買収防衛策の発動要件として株主総会で株主の意思確認をすべきかどうかという疑問もある。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
■「独立委員会」は経営者の保身のための機関? これまで主流であった『取締役会決定型』では、買収防衛策の発動時には、第三者の専門家で構成する「独立委員会の勧告」を経て、「取締役会の決議」で実行するというスキームになっている。ただ、王子・北越事件において、北越製紙の第三者委員会が、王子製紙側にルール違反があったという理由で王子製紙を「濫用的買収者」として、発動勧告を決定したことに典型的に見られるように、いままでの独立委員会の活動を見る限りでは、どうしても経営者寄りのメンバーを集めてきて、経営者の判断を後押しするという印象が拭えない。結局、経営者の保身のための機関であると思われがちである。 また、第三者といっても完全な「独立第三者」ではないケース(その会社と何らかのつながりのある弁護士や会計士など)や、本当に第三者であったとしても判断に適した人物が選ばれているのかと疑問を感じるケースもあり、問題点が多く指摘されている。つまり、独立委員会がきちんと機能していれば問題ないのだが、現状では独立委員会の判断が株主の意見を代弁しているというよりは、むしろ取締役会の意見を代弁していることが多い。 このように独立委員会が本来あるべき姿になっていないことから、独立委員会の判断を全面的に採用することに疑問を感じることがある。とくに、先程述べた北越製紙の第三者委員会については、王子製紙を濫用的買収者とした結論に加えて、地元の有力者等を委員に選定した委員会の構成についても批判があったようだ。この件以降、第三者委員会の存在異議が疑問視されるようになったともいわれる。 本来であれば独立委員会は、客観性が保たれるメンバーで構成され、本当に独立して判断をするべきところである。そのような公正な立場の委員会のもとの判断であれば、「このメンバーでこのように判断したのであれば尊重されるべきだ」と多くの株主は納得すると思う。しかし、現状の独立委員会の状況では、経営陣がいくら「独立委員会が判断したのだから、取締役会の保身目的ではない」といったところで説得力に欠ける。 こういう状況もあって、『取締役会決定型』には問題点も多い。とすると株主総会で株主の意思を確認するという『株主判断型』のほうが安全であり、訴訟リスクも軽減される。多くの企業が『株主判断型』に移行するのも自然な流れであるといえる。
しかし、『取締役会決定型』『株主判断型』どちらの承認プロセスを採用するかに関わらず、買収防衛策の主な施策は「新株予約権の発行」であることが多い。そもそも、「新株予約権の発行」を買収防衛策にするということ自体、果たして良いのかが問われなければならないとの指摘もされている。もともと「新株予約権の発行」というのは資金調達のための手段であり、それを買収防衛策に使うというのは本来の目的とは違う形で使われてしまっているのである。本来、企業価値を防衛するということで考えれば、企業価値を毀損するような株主の議決権をなくしたり、議決権割合を下げれば良いのであって、新株予約権を株主に大量に割り当てることは目的と効果を異にするものであるといわなければならない。 新株予約権を発行することによって一定の株主にだけ発行しないとなると、その株主の価値が希薄化することになり、「経済的損失はどうなるのか?」「それに対する引取り対価はどうなるのか?」という話になる。もし法廷闘争になったときには非常に厳しいものが予想される。まさにブルドックソースがそのケースであるが、ブルドックのように全部の新株予約権を発行して買い取るということになるわけだが、そうなると株主総会公認の究極のグリーンメーラーになることにもなりかねない。 こういった問題を解決する新たなアイデアも出てきている。東京財団というシンクタンクが提唱しているアイデアであるが、そこでは「一定の株数を超えた株主に対して暫定的に議決権を無くし、後日の株主総会で議決権について改めて決議する」というものである。実際にまだそれを導入したケースはなく、私自身も若干違和感を感じる部分がないわけではないが、買収防衛策として新株予約権を使うのが本当にいいのかどうかを考えさせられるという意味でも、傾聴に値するものであると思う。
いずれにしても日本において買収防衛策というのは、まだ非常に未成熟なものであるといわざるをえない。具体的にどのような状況で発動して、その効果をどうするのか、つまり「要件」と「効果」をもっと固める必要がある。いまのままでは「伝家の宝刀」のままになりかねず、気やすめにしかならないといわれても仕方ないだろう。 とはいえ現在の流れのように、買収防衛策が『取締役会判断型』から『株主判断型』に変わってきたことは少なくとも前進であるといえる。 しかし、『株主判断型』にもまだまだ問題点はある。その1つが、承認のタイミングである。どのタイミングで株主総会を開き、株主の承認を得るのか。「平時」なのか、「有事」なのか――。また、「平時導入、有事発動」とした場合に、平時に導入した施策が有事には必ずしも有効でない場合もあり、有事に改めて株主の意見を聞くべきなのかという議論もある。しかしそうすると、そもそも防衛策を事前に導入する意味があるのかという議論にもなりかねない。そういった意味でも、日本の買収防衛策はまだまだ未成熟な状態であるといえるだろう。
こういう状況の中でもやはり、第三者による「独立委員会」の役割は大きいだろう。そういう意味では、TBSの独立委員会は非常に見識あるやり方で対処していると思われる。20%を超える株主がいても、20%を若干超える程度であれば(それ以上増えないということを前提にして)、たとえ株主総会で決議した後でも買収防衛策は発動する必要はない、として発動を見送っている。 このように「独立委員会」の価値としては、経営陣がやろうとしていることを止めることに意味があるのであって、促進することに利用することは無理があるのである。つまり、「アクセル」ではなく、「良いブレーキ」になること。そのブレーキがかかっていないということになれば、たとえ法廷闘争になったとしても裁判所に対する説得材料になる。そのためには、「独立委員会」が経営者の保身のための機関ではないという実績が積み上がることが大切であるが、現状ではまだそれは実現していない。
買収防衛策の導入にあたっては、海外を含む機関投資家から問い合わせが来ることも多い。その主なものとしては、 ・独立委員会の人選基準は?独立性は保たれているのか? などがある。これも株主総会で株主の同意を得るのと同様に、会社の経営陣には説明責任がある。基本的には、いざとなったら買収者から株を買い取れるというフリーハンドを会社に残しておけばいいと思うが、機関投資家からは「その点を明確にしてほしい」という要望も強い。 またもう1つ、「企業価値を高めるための施策」というのをきちんと説明しなければいけないということもある。「自分たちはこういう形でこの会社の企業価値を高める努力をしており、その途中にあるので、いましばらく自分たちにやらせてほしい」「他からの買収者よりも自分たちのほうが企業価値を高められる」というメッセージが必要である。本来であれば中期経営計画などで、企業価値を高めるための“具体的な施策”を“時間軸”とともに明記するのが理想である。でなければ一定のプレミアムをつけてTOBをかけてくる相手に太刀打ちすることはできない。 にもかかわらず、自分たちはどういう形で企業価値を高めようとしているかを全然説明できていない企業が多い。単に「引き続き企業価値の向上に努める」という簡単な一文だけ明記して、株主に賛同して欲しいというのはムシのいい話である。しかし近年、株の持ち合いが功を奏しているのか、株主の基礎票を集めて株主総会で賛同を得やすくなっているのも背景にあるのかもしれない。 いずれにしても、これまで以上に経営陣には「企業価値の向上」「説明責任」が求められることになる。この2つをきちんとおさえておかなければ、外国人投資家を含めた株主の賛同を得られることはできない。「新株予約権の発行」を含めた安易な買収防衛策の導入は行なうべきではない。「伝家の宝刀」は本来抜かないためにあるのである。 PR |
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