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2008 03,29 16:00 |
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NIKKEI NETアイ プロの視点 春原 剛 編集委員 2008/3/26 米国で「ヒラリー・クリントン政権」が誕生した場合、誰がヒラリー外交の陣頭指揮を取るのか。米外交サークルでそんな問いかけを発信すると、十中八九返ってくる答えは「それはリチャード・ホルブルックではないか」というものである。 同じ女性であるマドレーヌ・オルブライト元国務長官やサミュエル・バーガー元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、そして現在はブルッキングス研究所の所長に転じているストローブ・タルボット元国務副長官らがその筆頭格といえる。だが、「ヒラリー政権」で最も国務長官に近いとされるのはオルブライトでもバーガーでもなく、ホルブルックというのが米政界での下馬評だ。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
カーター政権時代、アジア担当の国務次官補として対中、対日政策などを総括したホルブルックはクリントン政権でオルブライトの後の国連大使の要職を務め、その存在感を示した。ボスニア紛争では現在、米朝融和路線をひた走るクリストファー・ヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)らとともに和平交渉の最前線に立ったことでも知られる。 その大胆不敵な態度からワシントンの外交サークルで何かと物議を醸しているホルブルックはかねて、内輪の会合などで中国と米国との関係を「世界で最も重要な二国間関係」と表現していた。親日派として知られたマンスフィールド元駐日大使が日米関係の重要性を同様の表現で強調したことを思えば、両者の姿勢に大きな開きがあることは明白と言わざるを得ない。 そうしたホルブルックの外交哲学に大きな影響を受けていると思われるヒラリーはさらに一歩踏み込んだ。権威ある米外交雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に発表した外交政策に関する論文の中で、中国との関係を「最も重要」と言明したのである。この一節に当然のことながら中国政府の要人は喜び、日本政府の要人は顔をしかめた。 そうでなくとも「クリントン政権」に対する日本の官僚機構のトラウマは強い。貿易問題を巡っては日本市場の開放度合いを示す「数値目標」を無理やり押し付け、外交面でも大統領が数日間にわたって中国に滞在したにもかかわらず、日本を「素通り」するという愚挙を犯している。 「やはりヒラリー政権は日本嫌い、中国びいきになるのではないか……」 ヒラリー・ホルブルックのコンビの言動はそんな日本側の疑心暗鬼を加速させ、日本の疑心は確信に変わろうとしている。
もちろん、ヒラリー陣営にはホルブルック以外にも外交・安保政策チームで目を引く存在が多数存在する。北朝鮮の核問題で日米韓3カ国のシャトル外交を展開したウィリアム・ペリー元国防長官や、その弟子筋にあたるカート・キャンベル元国防副次官補(東アジア・太平洋担当)、そしてジム・スタインバーグ元大統領補佐官(国家安全保障問題次席担当)らは外交現実派に属し、いずれも強固な日米同盟を基盤とした上で中国への関与政策を続けていくべきだ、との姿勢を取っている。 だが、こうした「外交能吏」たちには弱点もある。それは最高権力者であるヒラリー・クリントン候補との「距離感」である。多額の政治的献金などを背景に外交能吏の枠を超え、政治的な重みを兼ね備えているホルブルックはヒラリー側近が形成しているといわれる「ヒラリー・ランド」の重要な一員といえる。これに対して、クリントン政権時代にヒラリー本人との接点があまり多くなかったキャンベル、スタインバーグらはヒラリー本人への影響力という面において、ホルブルックに少なくとも一枚劣るのは否めない。 ヒラリー・ランドの住民であるか、ないか――。 かつてクリントン政権が誕生した際、政権内で「フレンド・オブ・ビル(FOB)」と呼ばれた人々が内政・外交両面で注目された。最高権力者であるクリントン大統領と個人的な関係があり、そこに太いパイプを持つ人間であるかないかが最終的な政策実行力を決めたからである。「ヒラリー・ランドについても全く同じことがいえる」とある民主党関係者は断言する。 日本からの不信の目を意識したのか、ホルブルックは今年1月、ニューヨークの日本総領事館に足を向けた。そこで記者会見したホルブルックは唐突に「日本は米国の不可欠な同盟国であり、(ヒラリー・)クリントン氏は日米関係強化に努めるだろう」と表明した。同時に中国を含めた3カ国の関係について「米国が対中関係を強化するときは、同時に対日関係も強化しなければならない」と述べ、「ヒラリー政権」が対中重視に傾斜することはないと確約して見せたのである。
こうしたホルブルックの“外交努力”にもかかわらず、日本政府は依然、身を固くしてヒラリー陣営の外交・安保姿勢を見つめている。その理由の一つが現在、ブッシュ政権で米朝融和路線を先導しているヒル次官補の動向である。 米朝融和路線に猛進するあまり、日米関係への目配せを欠くことが多いといわれるヒル国務次官補はボスニア和平交渉で知己を得て以来、ホルブルックのお気に入りとなっていることはすでに触れた。 対北朝鮮で日本よりも北朝鮮に甘いとまで揶揄(やゆ)されるヒル次官補について、霞ヶ関ではアレルギー反応が強まっている。にもかかわらず、ヒラリー政権・ホルブルック国務長官誕生の暁には局長クラスにすぎない現在のポジションから飛び級して、ヒル次官補が「ナンバー3の国務次官(政治担当)、あるいは一気にナンバー2の国務副長官に抜擢される」との噂が絶えないのである。 仮にヒラリー政権が誕生するなら、本当に「ホルブルック国務長官・ヒル国務副長官」体制が発足し、「中国重視・日本軽視・米朝融和」という日本にとっての悪夢の三重奏が現実のものになるのだろうか。 「ヒラリー政権ならホルブルック国務長官」という見方が米外交サークルで半ば、常識のようになっているのは先述した。その一方で、米外交・安保政策に精通する多くの知識人の間では、傲岸(ごうがん)不遜・唯我独尊のスタイルを貫き、ここまでのし上がってきたホルブルックを冷ややかに見る空気も強い。 ヒラリー・ランドの住人の一人で、政権入りも噂されている有力者の一人は「ホルブルックを国務長官に指名したら、ヒラリー政権の外交・安保チームは発足と同時にガタガタになり、チーム・ワークは期待できなくなる」と懸念を隠そうとしない。 そうした民主党内の空気について、アジア外交に精通した国務省OBは、ある民主党の大物がホルブルックも出席していた資金集めパーティーでつぶやいた言葉で表現した。 このOBによれば、民主党の大物はこう断言したという。 「ホルブルックを国務長官などにしてはいけない。ヒラリーがオバマに負けて良いことがあるとすれば、それはホルブルックが絶対に国務長官にならないということだろう」
シリーズ:米大統領選と日米関係(1)「オバマ外交を先読みする」(2008/2/6) PR |
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