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2008 02,03 18:00 |
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最強の投資家、ニッポン上陸 「What should we buy?(何を買えば?)」 そのストレートな質問に、古賀信行社長はじめ居並ぶ野村証券の首脳陣は思わず身を乗り出した。 「What should we buy in Japan?(日本で何を買えばいいのですか?)」 2007年11月、東京・日本橋の野村証券本社ビル。アラブ首長国連邦(UAE)・ 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
その3業種とは「金融サービス」「環境技術」「不動産関連」である。 アブダビと同じUAEの首長国、ドバイは「日本買い」の姿勢を鮮明にしている。政府系投資ファンドのドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)は昨年11月、ソニーの株式を取得。全体の5%に満たないが、有力投資銀行の幹部は「買い増すのではないか」と予想する。 08年に入って世界の株式市場がきしんでいる。投資マネーは原油など高騰が続く商品市場へと向かい、これが株式への悲観論を増幅するという図式だ。だが、 北海油田を抱え、世界第3位の石油輸出国でもあるノルウェー。40兆円規模の政府資金を世界中の株式や債券に振り分ける。日本の株式市場にも1兆円を超す「ノルウェー・マネー」が入っている。 トヨタ自動車、3メガバンク、キヤノン、任天堂……。日本を代表する優良企業はもちろん、福島県を本拠とする婦人服のハニーズのような中堅企業も投資対象だ。 彼らは究極の長期投資家かもしれない。合言葉は「100年単位の資産運用」。石油は尽きせぬ泉ではない。いつかは枯渇する天然資源だ。 「石油が生む富を、将来の世代のため長期の金融収益に組み替える」 昨年までノルウェー政府基金を運用していたクヌート・シャール氏がこう言うように、危機感と使命感を持った投資主体だ。原油高に浮かれず、目先の株安を 再びUAE。ドバイのDICはソニーの出井伸之前会長をアドバイザーとして迎え入れた。出井氏は日経ヴェリタスにこう語っている。 ――中東の投資家は日本よりインドや中国への関心が高いのでは? 「そんなこと全然ありません。日本企業の技術力は彼ら(DIC)にとって宝の山と映るみたい。たとえば海水から淡水をつくる技術とか……。卑下することはないですよ」 ――アドバイザーに選ばれた理由は? 「彼らは大きなメッセージを送っているんじゃないかな。日本はもっとドバイに関心をもってほしい、とね」 「三菱商事、三井住友銀行、福岡銀行……日本企業の株式は数十銘柄になるかな」。アラブ首長国連邦(UAE)の石油の大半を産出するアブダビ首長国。イタリア料理店の入り口に背を向ける格好で座ったスーツ姿の男は世界最大の政府系ファンド、アブダビ投資庁(ADIA)がこれまでに買ったことのある日本株を明かした。 「私はあくまでADIAの『関係者』だ。現役の職員やOBが内情を話すとアブダビの国家機密を漏らした罪で刑事罰を受けることがあるので慎重にならざるを得ない」。男はそう言いながら、質問に答え始めた。 ■世界屈指の運用資産残高 英スタンダード・チャータード銀行はADIAの運用資産残高を6250億ドルと推測する。2位のノルウェー政府年金基金のほぼ2倍だ。 ADIAの従業員はアブダビ中心部の本社ビルを中心に2000人。投資対象の地域と分野によって数十の部署に分かれ、全容を把握するのは一部の幹部だけ。 「投資対象は米ムーディーズ・インベスターズ・サービスなどで長期債の格付けが常に上位にある信用力の高い企業。こうした『ブルーチップ』といえる株式は1度買ったら3年は保有したうえで、続けて持つか手放すか決めるのが基本」 ADIAは日本企業の株式に7000億~8000億円を投資。不動産には2000億~3000億円を投入しているもようだ。購入する不動産は千葉、埼玉など東京近郊のオフィスビルやマンション。占有率が9割を超えないと手を出さない。「計1兆円くらいを日本市場に投資しているが、1990年代初めのバブル崩壊前はもっとつぎ込んでいた」 男が語る「アブダビ流投資術」はこんな証言とも符合する。 「あなたたちマスコミを含め、多くの日本人は今の海外のソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)の行動を間違ってイメージしている」 野村ホールディングスの海外ビジネス統括責任者として中東などの政府系ファンドにトップセールスを日々繰り広げている戸田博史副社長は、日経ヴェリタスの取材に対してこう語った。「今の彼らを1980年代に猛威をふるったかつてのオイルマネーと同じと考えてはいけない。政府系ファンドの投資行動は、もっと進化しています」 80年代当時、野村のロンドン拠点に勤務していた戸田氏。石油危機による原油高騰で膨れ上がった余資を、世界の証券市場に振り向け始めた中東マネーの一挙一動を目の当たりにした。オイルマネーはロンドンを経由して日本株市場にも回ったが、「1000社を超える東証1部上場企業にすべて満遍なく投資するような買い方だった」。 もちろん、アブダビをはじめとする政府系ファンドが台頭してきた背景には米市場で1バレル100ドルを突破した原油価格の高騰がある。米投資銀行メリルリンチは世界の政府系ファンドの総資産を最大2兆2280億ドルと推定するが、そのうちの7割が産油国のファンドだ。 ■将来見据えた戦略投資 だが、かつてのオイルマネーと「原油高」は共通しても「今の政府系ファンドは、いずれ石油が枯渇する将来を見据え、投資を通じて自国にいかに持続可能な経済成長をもたらすのかを真剣に考えている」(戸田氏)点が異なる。この結果、政府系ファンドの投資スタイルは投資利回りだけを重視するかつての「純投資」から、投資を通じ技術や人材を自国に取り込む「戦略的投資」へ変化しているという。 昨年11月に野村の日本橋本社を訪れたアブダビ首長国の投資調査団に対して、野村側が日本の有望な投資対象として「金融サービス」「環境技術」「不動産関連」の3業種を挙げたのも「アブダビ流投資術」の真の狙いが「石油枯渇後の成長戦略にある」と見抜いたからにほかならない。実際の野村のプレゼンテーションでは具体的な企業名にまで踏み込んでいたようだ。アブダビ側からは「各業種のリーディング企業はどこか」といった質問が相次ぎ、野村とのミーティングは当初予定の1時間をはるかにオーバーした。 「砂漠が広がるUAEに、今から工場を建て、中国などと比べ競争力のある製造業を育てていくのは適当ではない」(戸田氏)。そこで、野村側は製造業ではなく金融サービス業をUAEで育成していくべき代表的な産業と考え、先端的な金融ノウハウを吸収するうえで日本の金融業にも投資を進めるべきだと説明したようだ。 環境分野を挙げたのは、この分野では世界に誇るテクノロジーを持つ日本企業が多数あるという理由から。最後の不動産関連とは前の2業種とは理由が少し異なり、「世界を代表する不動産の投資家である中東マネーに、日本の不動産が欧米に比べてまだ投資魅力があると説明した」(戸田氏)。 ADIAは長期運用が特色。対照的に英タッソーグループを買収後2年で売るなど短期売買が目立つのはUAEドバイ首長国の政府系ファンド、ドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)だ。「高利回りの追求が第一」とアナンド・クリシュナン最高執行責任者(COO)。投資資金の6割を占める金融機関からの借入金を焦げ付かせないためにも短期利益を追う。 ■15%超のリターンが目標 ドバイ中心部の金融特区、ドバイ国際金融センター(DIFC)のランドマークである「ゲートビル」東棟の13階。大きめのビジネスデスクと応接セットだけの質素なCOO室でクリシュナン氏は昨年秋、「投資対象は米経済誌フォーチュンが毎年発表する世界の優良企業500社『フォーチュングローバル500』に入るような企業だ」と明かした。 1週間後。初の日本株投資としてソニー株の買収を発表。保有比率は3%前後とされる。クリシュナン氏は「上場企業株の売買では15%、未公開株の投資でも20%以上のリターン(配当や値上がり益)が目標」と強気だ。 2004年にDICが創業した当初に在籍した欧州出身の事務職員は「ノウハウもなく、ゴールドマン・サックスなどが持ち込む投資案を内部会議用に書き直し、ほぼ丸のみする状態だった」と証言する。クリシュナン氏は「投資先は社内独自のアイデアで決定するのが普通だが、今でもメリルリンチ、野村、大和証券SMBCなど多くの金融機関と付き合いがある」と認める。 カタールの首都ドーハ中心部に建つ国営通信会社の本社ビル。看板もない裏口から7階に上がると、同国の政府系ファンド、カタール投資庁(QIA)の会議室フロアに着いた。壁が透明で中の様子がわかる15ほどの部屋がエレベーターを取り囲む。それぞれの部屋で5、6人のダークスーツ姿のビジネスマンが商談を進めていた。 英国、米国、シンガポール――。国籍は様々だ。「ドバイのプライベート・エクイティ・ファンドにQIAの資金を引っ張りたい」「QIAに英企業への投資を勧めるんだ」。待合室のソファでは商談の順番を待つ10人以上のビジネスマンがQIAの運用資産600億ドルに近づくための作戦を練る。 商談を終えたばかりのQIA幹部が話す。「我々の投資は高利回りを狙うだけではない。いつか石油や天然ガスが枯渇しても高い経済成長を続けることができるように産業を多角化、高度化することが最大の目的だ」 QIAは米買収ファンドのカーライル、ゴールドマン・サックスなどのファンドを通じ、日本の不動産、企業に投資している。さらに日本企業への直接投資を検討、銘柄の選定を始めた。 QIAの投資先として優先順位が高い分野は教育、健康医療、金融、ハイテク、インフラ、製造業。この幹部は「健全な会社で、将来性が高く、経営がしっかりしている企業を買いたい」と話す。「トヨタ自動車、ソニーなど世界でブランド力の高い企業に投資し、カタール政府が設けた企業集積地に研究開発拠点を誘致できれば最高だ」(加賀谷和樹〈ドバイ〉、川崎健) 中東だけではない。シンガポールの政府系投資ファンド、テマセク・ホールディングスは欧米系金融機関への投資に重点を移し始めた。米大手証券メリルリンチに44億ドルの出資を決めたほか、英スタンダード・チャータードの持ち株比率を昨年3月末の13%から18%に拡大した。テマセクの運用資産は1000億ドル(約11兆円)を突破。欧米系金融機関への投資目的は高い利回りもあるが、シンガポールをアジアの金融拠点にするための戦略的投資だ。 「資本増強への参加は経営陣への信頼の証しだ」。昨年12月24日、テマセクの投資部門のマニシュ・ケリワル・シニア・マネージング・ダイレクターはこう発表した。メリルの経営に直接参加するつもりはなく、あくまで長期投資家としてリターンを追求する。 シンガポール政府は富裕層向け資産運用拠点やイスラム金融拠点として香港や上海に勝る金融拠点に育てる目標を掲げている。メリルリンチは富裕層向けの資産運用や投資銀行業務などで有望。テマセクは経営には口出ししないとしているが、出資によってシンガポールをアジアでの金融拠点に選択させる利点を得たといえる。 欧米系大手金融機関の救済色の強い出資でシンガポールの政府系ファンドへの評価は欧米で180度転換しつつある。ただシンガポールの近隣国ではまだまだあつれきを生んでいる。 「我々は無罪だ。断固戦う」。昨年11月、テマセクのサイモン・イスラエル専務はインドネシア公正取引委員会による独禁法違反の判断に強く抗議、最高裁に上訴する意向を表明した。 同国公取委が問題視したのはテマセクがインドネシア最大の携帯電話会社テレコムセルなど通信大手2社の株式を関連会社などを通じて保有している点。両社の国内シェアは8割を超え、インドネシアの国家主義(ナショナリズム)に火を付けてしまった。 その直後、シンガポールの英字紙がテマセクのダナバラン会長のインタビューを掲載した。内容は投資方針の修正。柱は テマセクは昨年11月末、中国銀行、中国建設銀行と海運グループ、中国コスコ・ホールディングスの持ち株の一部を売却し約11億ドルを得た。日経ヴェリタスの取材にテマセクは「保有株構成の再調整」と説明するが、市場では「中国株の先行きを懸念し戦略を転換し始めた」ともささやかれていた。 テマセクは1974年の設立以来、通信、港湾、金融、不動産など自国の政府関連企業に出資しインフラ拡充の資金を供給してきた。だが07年3月末の自国内への投資割合は全体の38%。06年3月期の44%からさらに低下した。 今後は「アジアのインフラ案件への資金供給源の新しい担い手になる」とも説明。未公開株ファンドを通じた中小企業育成なども強化する構えだ。 ドバイのDICは昨年11月、ソニーの出井伸之前会長をアドバイザーに迎えた。 ――中東の投資家は日本よりも経済の高成長が続くインドや中国への関心が高いのでは? 「そんなこと全然ありませんよ。彼らは原油高という追い風を生かして、産業の基盤そのものを強化しようとしています。そのためには、長年にわたって技術を蓄えてきた日本や米国、ドイツといった先進国の企業の助けがどうしても必要になる。例えば中東は水不足が深刻ですが、今後の経済発展のためにはどうしても海水から淡水をつくる技術がほしい。そういう高度な技術を持つ日本企業は宝の山と映っているようです」 「私をアドバイザーにしたのは、『日本にもっとドバイに関心を持ってほしい』というメッセージ。ソニーにとどまらず、日本への投資先はどんどん広がっていくでしょうね。環境関連にとどまらず、高い技術力を誇る日本企業はどこでも投資対象になりうると思います」 ――中東勢は日本を重要な投資先と位置づけているわけですね。 「考えてみてください。世界の人口に占める割合が2%しかない国が、 ――今回、DICのアドバイザーを引き受けた理由は? 「話があったのは昨年6月ごろです。金融の専門家ではなく、事業に精通したグローバル企業の経営者を招き、長期的な企業の価値や成長性について助言してほしいということでした。何人もの関係者と面会を重ねる中で、あまり経営に口を出すつもりがないというのがわかった。日本人が警戒するアクティビスト(物言う株主)と一線を画したファンドということで、最終的に引き受けました」 「DIC傘下にある3つのファンドで、私が助言役になったのは『グローバル・ストラテジック・エクイティ・ファンド(GSEF)』。運用資産は20億ドル(約2200億円)で、米経済誌フォーチュンが毎年発表する世界の優良企業500社である『フォーチュングローバル500』が投資対象になるようです。日本企業は米国に次ぐ規模で、約70社ぐらいが入っているんじゃないかな。過去の経験を考えても、私はエレクトロニクス企業を中心に担当することになるでしょうね」 ――DICを含め中東投資家にはどういう特徴があるのでしょうか。 「たぶんみなさんが想像される以上に洗練された投資家ですよ。たいがいがロンドンにも拠点を構えて、グローバルに投資しています。運用を任せられたファンドマネジャーには欧米人も多く、世界で指折りの逸材ばかり。こういう人たちと接していると、中東のファンドということを忘れてしまうぐらいです」 ――どういう企業を有望な投資先として助言していくつもりですか。 「今期業績の見通しとか短期的なことに関心はありません。ポイントは新市場をいかに開拓できるかということ。ひとつは地理的なもので、中国とかインドとかいった新興国への事業の広がり。もうひとつは技術開発でどう新たな顧客層を獲得できるかという戦略。こうした条件に合った魅力的な企業が日本でもどんどん出てくることを期待しています」 ――ただ、日本企業には海外マネーへの脅威論が高まっています。 「すべての企業が保守的だとは思っていないけどね。企業を含めて、日本という国が海外からの投資を拒む理由はまったくないでしょう。日本は人口の5倍の経済規模があることを忘れてはいけない。これだけの富は海外からの資金も活用しないと維持していけない。いい悪いの問題ではなく、それは必需品なんです。国内消費が低迷する現状であれば、なおさら海外の投資を成長の原動力にすることが必要ですよね」 「経営者は車の運転を任されたドライバーのようなものです。そのドライバーに(所有者である)株主が意見を言うのは当然のこと。現経営陣の意にそぐわないことでも、企業の将来にとってはプラスということもあるでしょう。買収防衛策についても、それが経営者の保身になっていないかを考える必要があるでしょう」 ――DICは日本株への初めての投資先にソニーを選びました。今のソニーは出井さんにどう映りますか。 「まずはっきりさせておきたいのですが、今回のDICのソニー株取得について私が助言したという事実はまったくありません。今のソニーですか? 隠居したおじいちゃんの立場からすると頑張っているな、と。業績回復に道筋をつけて、今後はハワード・ストリンガー会長―中鉢良治社長の体制がどう成長戦略を描くかにかかっていますよね」 「消費者の生活が豊かに楽しくなるような製品やサービスを融合して、ブランドをちゃんとつくれば未来は明るいでしょう。やはり、ソニーとホンダは戦後の日本が生んだ傑作だと思っています」(聞き手は川上穣) これまで中東マネーといえば実態が見えにくく、謎めいた投資家とされてきた。ただここ最近の存在感の高まりでわかってきたのは、経営陣に友好的で長期に株式を持ち続ける傾向も強いということだ。株式市場は四半期業績の開示に伴い、ますます短期化が進んでいる。こうした中で、安定株主として期待できる中東マネーが重要さを増していくのは間違いない。 出井氏は中東勢の日本への期待を繰り返し語った。だが、中東にIR(投資家向け広報)に行く日本企業では「現地の投資家に面会を申し込んでも断られるケースが少なくない」(国内証券)という声もある。高い投資収益という点では、同じアジアでも中国やインドのほうが有望とみられているからだ。 一時1バレル100ドルに乗せた原油の高騰がもたらしたのは、先進国から産油国への富の移転だ。国内の投資家が様子見を決め込み、株安が続く危機的な局面を打開するために、中東マネーをどう取り込んでいくのか。事業面で新興国への進出を加速する日本企業だが、株主という観点からも中東など新興国マネーを獲得する戦略が必要になる。 PR |
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