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日経NB online 2007年3月28日 竹中 正治 最近のサブ・プライムローン問題を予測しているかのような記事が 下記内容は、ずいぶんと表現はソフトですが、 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
2007年3月28日 水曜日 竹中 正治 1997年7月、タイの通貨バーツ相場の急落で始まったアジア通貨危機から今年で10年目を迎える。 アジア通貨危機は中南米、ロシアなど世界に伝播し、日本を含む先進国の金融、資本市場に強い衝撃を与えた。その後、世界経済は2001年のIT(情報技術)不況を乗り越え、日本を含め景気の回復と経済成長が続いている。 しかし、新しい通貨・金融危機、あるいは市場激震の兆候はないだろうか? 筆者は短期的状況には楽観しているものの、中長期的には世界の通貨・金融市場に「地震を起こす地殻の歪み」が蓄積していると思う。
それを見抜くために、まず10年前に通貨・金融危機が起こった原因を振り返っておきたい。 1990年代、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国では日本をはじめとする先進諸国からの直接投資をテコに高度成長が続いていた。IMF(国際通貨基金)などの政策推奨に従って、国境を越えた資本移動の自由化政策を押し進めていたのである。 直接投資ばかりではない。株式や債券への投資や海外からの短期銀行借り入れなど、短期性資金の移動も自由化した。短期性資金とは環境次第で、文字通り短期で流出、あるいは流入する「足の速い資金」である。 そうした自由化政策の一方で、各国通貨については完全な自由変動相場制ではなく、ドルに対して固定性の強い管理変動相場制を堅持していた。ASEAN諸国では、貿易が経済に占める比重が極めて高いことが一因である。また、高度成長を謳歌していたこれら諸国の金融市場では、国内の資金需要が旺盛で、国内金利は米ドル金利よりもずっと高い状態にあった。 そのため、ASEAN諸国の企業や金融機関の多くが国内での資金調達よりも金利の低い海外から短期のドル建て借り入れを増やし、自国通貨に転換して使用するようになったのは自然の成り行きだった。こうして、ドルで借り入れ(短期ドル債務の増加)、自国通貨に転換する(自国通貨資産の増加)という財務上のリスクポジション(ミスマッチ)が、空前の規模に積み上がったのだ。 このことは、万が一、自国通貨の対ドル相場が急落するようなことがあれば、巨額の為替損失が生じることを意味していた。もちろん、彼らが為替リスクを承知していなかったわけではない。しかし管理変動相場制が採られていたので、為替リスクよりも金利格差のメリットの方がずっと大きいという判断が大勢を占めたのである。 -------------------------------------------- ○ヘッジファンドの介入を招いた当然の帰結だった この状況に目をつけた投機筋が、一部のヘッジファンドである。97年春、彼らはタイの通貨バーツに外為市場で巨額の「売り」を浴びせた。当初、タイ政府はバーツ買い・ドル売り介入で、投機的なバーツ売りに対抗した。しかし政府がドル売りを行うための外貨準備には限りがある。ついに政府がバーツ相場を支えきれなくなり、タイ・バーツは急落した。 同様のことが、インドネシアのルピア、マレーシアのリンギットでも起こった。 企業は既に多額のドル債務を抱えていたが、自国通貨の下落による為替損失を食い止めるためにはドル買い・自国通貨売りをするしかない。その動き自体が自国通貨の相場下落に拍車をかけるという悪循環に陥った。 これがASEAN諸国の通貨相場が暴落したメカニズムである。この崩壊の連鎖に巻き込まれた現地企業の多くが、巨額の為替損失で債務超過に陥り、銀行借り入れは返済不能となった。そして、一気に信用危機、金融システムの危機へと発展した。 人間は一度不安心理にかられると、直接関係のないことまで不安の対象が拡大するものだ。国際的に活動する投資家や金融機関も同様である。彼らは抱えるリスクを縮小するために、ほかの発展途上国への投資や融資の回収に走った。その結果、それらの国はクレジットクランチ(信用収縮)に襲われ、金融危機はフィリピン、韓国、香港、台湾、さらには中南米、ロシアにまで広がった。 まるで疫病のように金融危機が世界中に伝染したのだ。ロシアの高金利国債に投資していた欧米のヘッジファンドや投資家、ロシアの銀行は、ロシア国債と通貨ルーブル相場の暴落で巨額の損失を抱えた。米国の巨大ヘッジファンドLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)も破綻した。 「ファンド悪玉説」が通り相場だが、むしろ、アジア通貨危機は間違った金融政策によって引き起こされたと言った方が正しい。 ASEAN諸国政府は、内外の資本移動を自由化した以上、外為市場でも完全な自由変動相場制を採用すべきだった。そこに、金融政策上の不整合が生じていたのだ。逆に言えば、固定的な相場制度を維持するのであれば、内外の資金移動を規制しなければならない。これは国際金融論の基本的な知見である。中国ではドルに対する固定相場制と資本移動規制を実施していたため、国内への危機の波及を遮断することができたのは、そのことを証明している。 ----------------------------------------------- ○アジアと米国で全く異なる危機からの教訓 興味深いのは、アジア通貨危機が残した教訓が、日本を含むアジア諸国と米国とでは対照的なことだ。 アジア諸国ではマクロの実体経済のみならず、金融機関がダメージを受け、脆弱な機関は欧米系資本に買収されてしまった。そうした手痛い経験を経てアジアが学んだ教訓は、「二度と同じ危機を繰り返さない」ということに尽きる。 ASEAN諸国は管理変動相場制を維持すると同時に短期性資金の移動に対する規制を設け、政策パッケージとしては整合性を復活する方向に動いた。新興のアジア諸国は為替市場でのドル買い介入で自国通貨相場の上昇を抑制し、貿易黒字と外貨準備を増加させ、危機への耐久力を高めた。また、ASEAN、日本、中国、韓国で通貨スワップ協定を締結し、緊急時に外貨を融通し合う体制を築いた。 米系資本は全く違う。彼らにとっての教訓はこうだ。 「途上国の資本・金融市場をまず自由化させるべし。順調に資本市場が発展すれば、それでビジネスチャンスを得るべし。もし危機が起これば絶好の買場となる、買収すべし」 プレデター(捕食者)のようなビジネスモデルが確立されている。 ------------------------------------------------
では、今日、新たな危機の兆しはあるだろうか? 一つの見方は、危機を回避しようとする行動自体が別の形の危機の原因を生む、ということである。 アジア諸国、特に中国の自国通貨上昇を抑制する政策が、国際的不均衡を是正するために必要な為替相場の調整を先送りしている。米国の経常収支赤字の膨張に歯止めをかける市場メカニズムが働かないのである。 不均衡の調整が先送りされるほど、将来、ハードランディングになる危険が高まる。中国国内では、人民元相場の上昇を人為的に抑制する巨額のドル買い・人民元売りの為替介入のために通貨供給量が膨張し、不動産から株式まで様々な投機現象の横行を引き起こしている。 先送りされた調整が具体的にどのようなハードランディングを生むかは予想困難ではあるが、「次のバブル崩壊的な激震の震源地は中国」という予感は、国際金融のプロの間で共有された認識だろう。2月末の上海株式の反落という「水鳥の羽音」のような出来事に世界の投資家が過敏に反応し、リスク回避的な行動に出たことによって、短期間とはいえ世界同時株下落を引き起こした。これはそうした不吉な予感が共有されていることの証左である。 -------------------------------------------------- ○危機をビジネスチャンスに転じる米系資本のしたたかさ だが、立場が変われば見方も変わる。プレデターたちにとっては、中国バブル崩壊のような激震こそがチャンスなのである。米国のポールソン財務長官はこの点で実に率直である。彼は3月に訪中し、上海で講演した時にこう言った。 「中国の資本市場を世界的な競争に開放することは、中国に多くのメリットがある」 より大きなメリットを享受するのは、米国のプレデターではないのか…。さらに、ポールソン財務長官はこうも言い放った。 「中国の銀行の経営支配権を海外投資家に売却することを自由化すれば、中国の銀行経営の改善、強化を促進できる」(筆者注:現行では海外投資家の保有比率は25%に制限されている) これほどまであけすけに米国の投資・金融界の利益を財務長官が代弁するのは、驚きを超えて感心してしまう。 中国政府もWTO(世界貿易機関)に加盟した以上、自国の金融と資本を将来にわたって世界から隔絶させておくのはできないということは承知しているはず。金融・資本市場の自由化は、経済の発展に伴い不可避なプロセスである。だが、それは政策的には極めて難しいプロセスでもある。既存の諸規制・政策体系を順次解除、改正していくわけだが、手順やタイミングを間違えると既に述べたような各種の政策的な不整合を生み出すからだ。 実際、米国では80年代の自由化の過程で多くの金融機関の破綻、淘汰を招いた。米国に10年遅れて金融自由化を進めた日本では、90年代からの約10年間がそうした破綻と淘汰の時代となった。 マクロ的な金融危機が生じなくても、新しい金融環境への適応に失敗して破綻する金融機関はいくつも出てくる。その時に備えて、プレデターたちは爪を研ぐのに余念がない。 アジア通貨危機から10年目の警告は、そうした構図に変わりがないどころか、より先鋭化していることを思い起こせということにほかならない。 PR |
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