『才徳兼備（さいとくけんび）』 【季節の言葉９８】

「偶成（ぐうせい）」- 夏伊蘭

人　生　徳　與　才　　兼　備　方　爲　善
獨　至　評　閨　材　　持　論　恆　相　反
有　徳　才　可　賅　　有　才　徳　反　損
無　非　亦　無　儀　　動　援　古　訓　典
我　意　頗　不　然　　此　論　殊　褊　淺
不　見　三　百　篇　　婦　作　傳　匪　鮮
葛　覃　念　父　母　　旋　歸　忘　路　遠
柏　舟　矢　靡　他　　之　死　心　不　轉
自　来　篇　什　中　　何　非　節　孝　選
婦　言　與　婦　功　　徳　亦　籍　此　闡
勿　謂　好　名　心　　名　媛　亦　不　免

　人生、徳と才と、兼ね備えて方（はじ）めて善しと為（な）す。
　独り閨材（けいざい）を評するに至っては、持論恒（つね）に相反す。
　徳あれば才賅（さいた）すべし、才あれば徳反（かえ）って損す。
　非なく亦儀（またぎ）なしと、
　　　　動（やや）もすれば古（いにしえ）の訓典（くんてん）を援（ひ）く。
　我意（おも）うに頗（すこぶ）る然（しか）らず、
　　　　　　　　　　　　此（こ）の論は殊（こと）に褊浅（へんせん）なり。
　見ずや三百篇、婦作（ふさく）伝ふる鮮（すくな）きに匪（あら）ず。
　葛覃（かったん）は父母（ふぼ）を念（おも）ひ、
　　　　　　　　　　　　　　　旋帰（せんき）して路（みち）の遠きを忘る。
　柏舟（はくしう）は矢（ちかっ）て他になく、死に之（いた）って心転ぜず。
　自来篇什（じらいへんしふ）の中（うち）、
　　　　　　　　　　何（いづ）れか節孝（せっかう）選に非（あら）ざらん。
　婦言（ふげん）と婦功（ふこう）と、
　　　　　　　　徳亦此（とくまたこ）れに籍（よ）りて闡（あきら）かなり。
　謂（い）うこと勿（なか）れ、名を好む心、
　　　　　　　　　　　　　名媛（めいえん）亦（また）免（まぬか）れずと。

　　人生は徳と才を兼ね備えてこそいいという。
　　ところが女性を評するときには、いつも違うようにいわれる。
　　徳あれば自然に才能は備わっていて、なまじ才があれば徳が損なわれると。
　　女は非もなく、また威儀もないのがいいなどと、古い書物を引き合いに出す。
　　私が思うに、こんな論は偏狭で浅はか。
　　御覧なさい。詩経三百篇の中に、女性の作だといわれるものが少なくない。
　　葛覃篇には、嫁しても父母を忘れず、帰るのに遠路を厭わず、
　　柏舟篇には寡婦となって再婚を勧められても
　　死ぬまで心を転じなかった詩があります。
　　詩篇中、どれ一つとして節孝でないものはありません。
　　女性は学芸によって、徳があきらかになるのです。
　　いわないで下さい。名誉欲が才媛にもあるのだなあなどとは
　　（そんな言い方こそ、女性を侮辱していることなのですよ）。

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[1回]

　清の時代の詩なのですが、
いつの時代も心狭いオトコたちは変わらないですね。
まぁ～「才色兼備（さいしょくけんび）」なんて言葉は、
どうせオトコたちが言い始めた言葉なのでしょう。

女性の語彙（ごい）には、あろうはずもなく、
清の時代の十五歳の少女詩人がいった『才徳兼備』の言葉のほうが、
優れた女性の言いに思えます。

才能と人格の二つともに備わるのが人として素晴らしいこと。
女性だけが、人格より容貌だなどとは男の身勝手な言い草です。

　活花の中に「文人花」というのがあります。
上記写真は「文人花」ではありません。単なる活花です。

「文人花」とは、活花や茶花と違い、
自然の木の動きをそのまま把（とら）まえ、
活け手の作意や技を嫌います。
自然の動線を室内に移すので、豪快華麗な力動感と朴訥さが混在し、
草鉢との取り合わせが可能となります。

「文人花」にはまた、暗喩を込める遊びがあります。
アオキ（青木）は秋には珊瑚珠のような実を結ぶので、
宝玉を生む隠れた徳「玄徳（げんとく）」をもつことを意味し、
百合はもちろん、深い香り、百の香りを併せ持つ
美しき女性に譬（たと）えられています。

つまり、アオキ（青木）とユリ（百合）で、
奥深い徳を持った お淑（しと）やかな美女
『徳色兼香（とくしょくかねかおる）』の異名が与えられます。

７月の代表的な花は「ユリ（百合）」。
それにアオキ（青木）を加えた写真の活花には、
そんな女性への想いが秘められています。