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2010 03,26 15:00 |
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「ギリシャ悲劇」次の舞台は日本市場か 不道徳な賭博なのか、それとも現実を正しく映し出す鏡か。 ある金融商品に対する規制の在り方をめぐり、欧米で金融関係者と当局者の意見が真っ二つに割れている。そのきっかけはギリシャの財政危機から派生した欧州国債市場の混乱。「投機筋の次の標的は日本」とも叫ばれる中、我が国の当局は模様眺めでよいのだろうか。 興味のある方は、"つづきはこちらです"をクリック!
当時、AIGはゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーをはじめとする大手投資銀行などから想定元本ベースで4000億ドル(約36兆円)以上のCDSを引き受けていた。仮にAIGが破綻すればCDS取引が大混乱に陥り、国際金融市場に破滅的な影響を及ぼしかねない――。危惧した米国の財務省と連邦準備制度理事会(FRB)は、AIGの実質国有化に踏み切らざるを得なかった。それ以来、CDSは世界の金融市場を汚染する「有毒金融商品」の代表格に擬せられている。 CDSは、企業の信用リスクをカバーするデリバティブ(金融派生商品)。ある企業の社債を購買した投資家が、その企業が破綻して保有社債が「無一文」になるリスクを他の投資家に移転するために購入する、一種の保証または保険だと考えてよい。 CDSの買い手は保証料(リスクプレミアム)を売り手に支払う。引き受ける信用リスクの計算さえうまくできれば、CDSの売り手はプレミアム収入で潤う。1990年代、金融工学とコンピューターの発達で迅速な信用リスクの計算が可能になり、CDS市場は一気に成長した。 2000年代のAIGはCDS取引で業績を急拡大し、そして瞬く間に破綻の瀬戸際へ追い込まれた。「プレミアム集めのおいしい商売」に傾斜していたところに、リーマン・ショックでCDS価格は計算外の大暴落。大量のCDSを引き受けていたAIGは巨額の損失を蒙り、奈落の底へと沈んでいった。 2000年代に入ってからのCDS取引の規模拡大は凄まじかった。国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)の「ISDAマーケット・サーベイ」によれば、発行残高(想定元本ベース)は2001年6月末の6315億ドルから、ピークの2007年末には62兆1732億ドルへと100倍の規模に膨らんだ。金融危機発生後の2009年6月末時点でも、最盛期の半分とはいえ31兆2231億ドルの残高がある。 CDSは元来、信用リスクのある株式や社債を保有する投資家のための保証商品。しかし信用リスクの計測が市場データから数理モデルを使って簡単にできるようになると、株式や社債を発行していない企業を対象にしたCDSさえ販売されるようになる。 こうした商品を「ネイキッド」CDSと呼ぶ。つまり「裸」というわけだから、もはや賭博に近いイメージになる。ロンドンのブックメーカー(政府公認の賭博の胴元)が女王陛下の退位を対象にした賭博を売り出したり、米国中西部のビジネススクールがウェブサイト上で電子的な賭場を開帳し、そのオッズで大統領選の勝者を予測したりする、あの世界だ。
信用リスクがないリスクフリー(安全)資産の代表格である国債を対象にした「ソブリンCDS」も、1990年代から存在する。なぜ国債に信用リスクがないのか。それは、国債が国の借金であり、いざとなれば国民に課税すればよいという理屈になる。 とはいえ、健全財政の国と借金まみれの国の間で国債の流通利回り格差が生じているように、財政危機が懸念される国のソブリンCDSのプレミアムも高くなる。このためソブリンCDSのプレミアムは、ある国の財政の健全度を金融市場がどう見ているかを示す定量的な指標だと考えられる。 財政危機に瀕した国のソブリンCDSのプレミアムは高くなる――。こうした思惑から、世界中の大手金融機関が取引に殺到。その多くが国債を現実には持たず、投機的な「裸の」CDS取引を続けている。 1990年代末~2000年代初めにかけ、アジアからロシア、東欧、そして中南米へと飛び火した通貨危機では、いずれも財政危機が引き金となった。国際決済銀行(BIS)の2003年12月の四半期レビューによれば、2000~03年に発行されたソブリンCDSのうち、半分以上が危機当事国の国債を対象とするものだ。 ちなみに、「失われた10年」の真っ只中でデフレと銀行不良債権問題に苦しんでいた当時の日本の国債を対象とするソブリンCDSも、発行高全体の6.3%のシェアを占め、国別ランキングで3位につけている。 その後、企業を参照対象にする銘柄の発行高が拡大したことから、1998年にCDS総発行額の約3分の1を占めていたソブリンCDSのシェアは急速に低下した。 しかし現在では、そのシェアが15%近くまで再び上昇している。米国最大の証券保管振替機関DTCCの子会社が保有するCDSの市場データベース(TIW)によれば、CDSの総発行残高(想定元本ベース)15.2兆ドルのうち、ソブリンまたは州対象のCDSは2.2兆ドルを占める(2010年3月12日時点)。参加者の9割が大手金融機関というプロが集まるCDS市場では、ソブリンCDSが大事な売買対象になる。
今回のソブリンCDS騒動の発端は、2009年末に露顕したギリシャの財政危機。構造的な財政赤字にあえぐ同国政府は、EU通貨統合の加盟条件(コンバージェンス・クライテリア)を満たすため、統計の操作や「飛ばし」まがいのソブリンCDS取引を使い、財政赤字を実態より小さく見せていた。それが明るみになると同時に、「悲劇」の幕が開いた。 このスキャンダルをきっかけに、ギリシャ国債のソブリンCDSのプレミアムは急上昇。2009年12月初めに200ベーシスポイントだったプレミアムは、年明けに300ベーシスポイントを超える水準にまで跳ね上がった。 一方、この時期の主要先進国のプレミアムは80ベーシスポイントを超えていない。つまり、ギリシャの信用リスクを危ぶむ見方が金融市場でいかに高まったかを示している。 ギリシャでは国債入札の首尾が危ぶまれ、国債の発行利回りも跳ね上がった。しかし、ギリシャのソブリンCDSは国債流通量の3~4%にすぎない。「犬の尻尾」に国家全体が振り回される事態に陥ったのだ。 しかし、国家の危機は金融機関の商機。欧米の大手金融機関はこぞってギリシャのソブリンCDS取引に参入していた。 2010年3月16日、米国商品先物取引委員会(CFTC)のゲンスラー委員長がブリュッセルの欧州議会経済通貨委員会で講演。ソブリンCDSを使ったギリシャ政府による「飛ばし」まがいの10億ドルの取引について公然と非難し、CDS取引の透明化を訴えた。しかし皮肉なことにこの「飛ばし」取引には、ゲンスラー委員長のお膝元である米国の大手投資銀行の関与が噂されている。
ソブリンCDS、特に「裸の」CDSの取引は不道徳であり、規制をかけるべきだとする意見は欧州に根強い。 例えば、ロンドン・ビジネススクールの経済学教授で経済政策調査センターの創設者であるリチャード・ポーテスは、「裸の」CDSは禁止すべきだと訴える。その理由は、 例えば、ヘッジファンドの覇者ソロスファンドの創設者であるジョージ・ソロスは1992年ポンド危機の際、わずか100億ドルの投機資金でイングランド銀行のポンド防衛策を打ち負かした。国債の流通総額が巨大だからと言って、取引量が国債に比べ小さいソブリンCDS取引が国債市場全体を振り回さないとは限らないというのである。 次の欧州中央銀行(ECB)総裁候補の一人に擬せられるマリオ・ドラギ金融安定化理事会(FSB)議長も、ソブリンCDSの規制に積極的だと見られている。2009年12月9日、欧州人民党のハイレベル政策討議会合で講演し、「市場参加者は国債が安全資産だという仮定に挑戦しているのだ」と断じている。 また、英国の金融サービス機構(UKFSA)のアデル・ターナー会長は2010年3月17日、ロンドンのCASSビジネススクールで講演。CDSが銀行に対して信用リスク管理の手段を与えたと評価する一方で、それの体現するリスクプレミアム自体が市場の信用不安への期待を醸成してしまうという自己参照(self-referential)を指摘した。すなわち、CDSには市場のボラティリティーを高めてしまう危険性があると警鐘を鳴らしたわけだ。
欧州から沸き起こるソブリンCDS規制論。これに対して反論に努めているのが、CDSを含む金融デリバティブ市場の参加者の業界団体である国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)だ。 2010年3月15日、ISDAはプレスリリースを出し、「裸の」ソブリンCDSの取引は透明で流動性もあり、規制論や禁止論は間違っていると訴えている。 (1)ギリシャ国債のソブリンCDSは90億ドルの残高に過ぎず、2008~09年に残高が急増した証拠もない。残高が4000億ドルを超えるギリシャ国債市場を、90億ドルのソブリンCDS取引がどうして混乱させられるのか 前述したポーテス教授らの規制論に対し、ISDAはこのように反論している。米国CFTCのゲンスラー委員長も欧州議会講演の直前、記者団とのやりとりの中で、ソブリンCDSの規制実施は困難だし規制しても他の高リスク金融商品への投資を助長するだけだと慎重論を唱えている。 さらに激しい規制反対論を展開しているのが、大手金融機関のアナリストらだ。シティバンク欧州は2010年3月1日、「ソブリンCDS:『お前は鏡に映ったお前の醜い顔を非難できない』」という刺激的な題をつけたアナリストリポートを配布した。 それは、 つまり、シティバンク欧州のアナリストは、「裸の」ソブリンCDSのプレミアムはある国の財政の悪化度を映す鏡のようなものにすぎず、鏡には現実の姿を変える力はない。非難されるべきは財政を悪化させているその国の政府だ――と主張しているのだ。
「裸のソブリンCDS」規制をめぐる欧米金融界の議論は、日本の当局にとっても対岸の火事ではなく、高みの見物を決め込んではいられない。 2009年9月に公表された経済協力開発機構(OECD)エコノミック・サーベイによれば、日本の公的債務は2010年にグロスでGDP比200%、ネットでも同100%を超える。金融市場で投機的攻撃を受け、目下「炎上中」のギリシャを上回るほどの財政の悪化状況なのだ。 日銀の資金循環統計(速報)によれば、日本国債の流通残高は680兆円(2008年末時点)。海外保有分はそのうち6.8%に過ぎない。しかし、国債所有者のほとんどが国内だからと言って安心してはいられない。 前述の米国証券保管振替機関DTCCのデータでは、日本国債を対象としたソブリンCDSの発行残高は41億ドル(ネットベース、2010年3月12日現在)。たしかに680兆円の巨大な国債流通残高に比べれば42億ドル(約3800億円)はピーナツのように小さいが、ギリシャではわずか90億ドルのソブリンCDSが流通規模4000億ドルの国債市場そのものを振り回したのは先に紹介した通りだ。 事実、複数の金融市場関係者によれば、「次の標的は日本」とばかりに日本のソブリンCDSプレミアムが奇妙な動きをしたことが過去1年の間に何度かあったという。 例えば2009年1月下旬。欧米主要先進国のソブリンCDSプレミアムが下落に向かう中で、日本のソブリンCDSプレミアムだけが独り急上昇した。次は同年10月末。日本のソブリンCDSプレミアムが再び急上昇し、財政赤字の急拡大するイタリアを抜いて75ベーシスポイントを超えた。ところがいずれのケースでも、10年物日本国債の流通利回りは1.5%を下回る水準で概ね安定的に推移していた。 次の商機はアジア太平洋にあり――。世界中のソブリンCDS取引関係者の注目が、日本をはじめとするアジアに向いているのかもしれない。地方政府や国営企業の「隠れ借金」が巨額に上ると噂される中国も、関係者からは「次のメシの種」と注目されている。 実際、金融デリバティブの指標を提供している英国のマークイット社が日本や中国を含むアジア太平洋10カ国のソブリンCDS指数の公表を計画しているという話が報道ベースで流れた。
これだけなら、「投機筋の商売の話」と笑っていられるかもしれない。あるいは財政規律の話であり、金融システムは関係ないと高をくくれるかもしれない しかし、現実はそうではない。 気掛かりな実証研究が1つある。2006年3月に日銀の有志2人がまとめた「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場にインプライされているデフォルト確率と期待回収率の推定:日本ソブリンとわが国大手銀行のCDSに関する実証分析」という論文がある。 この44ページに及ぶ英文のワーキングペーパーはCDS市場の実証データを使い、 このペーパーの含意に従えば、日本のソブリンCDSが「投機筋」から挑戦を受けている時、日本の銀行セクターの信用リスクも試されていることになる。 確かに、日本の金融機関が保有する国債は505兆円(2008年末の日銀資金循環統計速報)に達し、国債総流通残高の7割を超える。日本のソブリンCDSは日本の財政の信用度ばかりではなく、日本の金融機関の信用度も試しているのだ。そう考えると、日本の金融当局も安閑としてはいられまい。 国の「生死」を賭ける不埒な賭博か。はたまた財政の緩みに警鐘を鳴らす憂国の手鏡なのか。 ソブリンCDSをめぐる哲学的論議は別にしても、ソブリンCDSプレミアムの急上昇が国債市場に混乱をもたらせば、問題は日本の金融システム全体に波及する。日本の金融当局はそう観念した方がよい。だからこそ、「裸のソブリンCDS」規制の是非をめぐる欧米の論議には、日本の当局こそ本腰を入れて取り組むべきなのだ。 PR |
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コメント |
お礼の返信遅くなってしまいすみませんでした。
やはり経験ですよね。私もさまざまな人から吸収できる力と選択する力を養えるよう心掛けていこうと思います。 御教示いただきありがとうごさいました。 【2010/03/2618:08】||サウスボストン#92ca4cd6b7[ EDIT? ]
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