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『日本経済を襲う二つの波』リチャード・クー著 株式日記と経済展望 2008年7月7日 月曜日 ◆いま世界経済が陥つている危機は大恐慌以来最悪の事態 いま世界中が注目しているのは、米国の住宅バブル崩壊に始まる欧米のサブブライム危機である。この問題には住宅バブルの崩壊がもたらす米国の実体経済に対する悪影響と、住宅ローンのデフォルト急増がもたらす金融機関の損失拡大という二つの側面があり、本章では後者を第一章で、そして前者を第二章で議論する。 それでは今回の金融問題だが、名財務長官と言われたロバート・ルービン氏からジョージ・ソロス氏のような著名な投資家にいたるまで、口を揃えて「今回の危機は戦後最悪の金融危機だ」と強い言葉で警告を発しているが、彼らの危機感は海外の金融市場を見れば歴然としている。 実際、二〇〇七年の秋から欧米の金融市場が機能不全に陥り、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)を始め、ECB(欧州中央銀行)、スイス中銀、イギリス中銀など、各国の中央銀行が次々と新しいスキームをつくって資金投入を続けているのが現状である。 こうしたなかで現在まともに機能している金融市場は、世界で東京だけである。したがって、日本にいる我々は特別何も感じていないし金融危機を実感してもいない。しかし世界的に見ると、いま大変なことが起きているのである。 それでは、金融市場が機能していないとはどういうことなのか。その現象面から見ていくことにしたいが、その前に金融の基本的な仕組みについて説明しておこう。 我々一般市民や企業は銀行にお金を預けたり引き出したりしている。銀行が経済全体の決済システムを担っているからである。例えば、我々が生活費を下ろしたりローンを借りたりすることによって、毎日すさまじい額のお金が銀行から出ていく。逆に、預金やローンの返済などによって、巨額の資金が銀行に流れ込む。そうした我々の行動に基づく資金の出入りに対して銀行はまったくの受け身である。それゆえ、場合によっては、出ていくお金が少なくて入ってくるお金が多いこともあれば、その逆のケースもある。そうした資金の流入・流出が毎日行われているのが金融の世界である。 出ていくお金が多くて入ってくるお金が少ない銀行は、資金不足になる。しかし、銀行のシステム全体で考えれば、それとは反対に、入ってくるお金が多くて出ていくお金が少ない資金余剰の銀行が必ずある。そこで銀行同士が資金を融通し合えばすべての決済はスムーズに行われる。 その役割を果たしているのが金融の中心に位置する「インターバンク市場」と言われるものである。すなわち、インターバンク市場は、資金がダブついている銀行から資金不足の銀行へお金を供給する橋渡し役を務めている。それによって金融全体がうまく回っているのである。 ところがいま欧米では、その決済システムの中心であるべきインターバンク市場が機能不全に陥り、決済ができなくなる可能性が出ているのである。資本主義社会の"血液"である資金の流れが滞ってしまったら、経済は大混乱に陥ってしまう。そんな深刻な事態が、いま起きようとしているのである。 ◆カウンターパーティー.リスクがインターバンク市場を凍りつかせた なぜ、そんな事態が発生したかというと、余剰資金を持った銀行がそれを抱え込んで、市場に回さなくなってしまったからである。 なぜ回さなくなってしまったかと言うと、インターバンク市場の参加者である銀行が、お互いに相手を信用しなくなってしまったからである。お互いに相手を信用できない、という疑心暗鬼の状態は「カウンターパーティー・リスク」と呼ばれている。カウンターパーティーというのは「取引相手」という意味であるが、取引相手に対するリスクをみんなが取りたくないから、市場がどんどん縮小してしまうのである。 銀行同士、お互いに信用しなくなったのは一言うまでもなく、相手がいつ潰れるかわからないからである。最近の例を挙げれば、二〇〇八年三月に米証券大手のベアー・スターンズはたった二日間で破綻してしまった。同社が破綻した週末の二日前の木曜日の朝に、同社は八○億ドルの資金があると思っていた。ところがその日の夜までに六〇億ドルが逃げ出し、週末にはたったの二〇億ドルしか残っていなかったのである。 ベアー・スターンズのようなことがあると、資金の出し手は融通した資金が戻ってこない可能性があるので、なかなか資金を出さなくなってしまうのである。ベアー・スターンズの時は破綻寸前になって当局が介入して大事になるのを防いだが、もしも当局のあのような行動がとられていなかったら、大変なことになっていた可能性があるのである。 しかし、ベアー・スターンズのような大手金融機関がわずか二日で破綻する事態が発生すると、多くの金融機関はやはり現時点で資金をインターバンク市場に出すのは得策ではないと考える。その結果、現状では資金の借り手がいつ倒産するかわからないので、インターバンク市場の金利が通常よりずっと高く設定されるようになり、同市場が通常の機能を果たせなくなってしまったのである。しかし彼らがお金を出さないと経済の血流が止まってしまう。それを回避しようと、各国の中央銀行は必死になって資金投入を続けているわけである。 中央銀行が資金供給者として出てくれば、資金不足になっている銀行は中央銀行から直接借りることによって決済をすることができるようになる。そこで去年の秋ごろから、FRBも、ECBも、イギリス中銀も、そしてスイス中銀も積極的に乗り出してきて、なんとか資金の流れをストップさせまいとずっと資金供給を続けているわけである。 しかし直近(○八年五月)まで、中央銀行がずっと資金供給を続けているということは、実はこの問題がずっと続いていることの証しに他ならない。各国の中央銀行が毎週のように新しい資金供給策を発表しているのは、ただただ決済システムが壊れないようにしているということなのである。 こんな事態に立ち至ったのはまさに前代未聞である。それにしても、なぜ欧米の金融界はこれほどまでにひどい状態になってしまったのか。この背景には、後述するようにサブプライム問題から始まった多くの金融商品の価格暴落で各行にすさまじい損失が発生していることに加え、お互いに相手がどのくらい損失を抱えているかわからないという不安心理がある。 例えば去年の秋から、欧米の大手銀行がアジアやアラブのSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド=政府系投資ファンド)からずいぶん資本投入を受けているが、その資本投入を見ていると、一定のパターンがある。つまり、資本投入が決まると損失を発表し、次にまた資本投入が決まったら損失を発表するということが繰り返されているのである。 そんな光景を目にすれば、誰であれ、「これらの金融機関は資本投入分しか損失を発表していないのではないか」と思うようになる。そうなると、「資本投入を受けなかったらどんな事態になっていたことか」「自己資本が相当致損している可能性がある」「現実はすでに債務超過なのかも知れない」という連想ゲームが働き、それらの金融機関に対してカウンターパーティー・リスクがとれなくなってしまうのである。当然、相手行もこちらが同じ問題を抱えていることを知っているから同じ結論になる。その結果、インターバンク市場が機能不全に陥ってしまうのである。 また、シティバンクは〇七年十一月、ADIA(アブダビ投資庁)から資本投入を受けたが、○八年に入ると二度目の投入に動き出している。もしシティバンクがADIAに対して「これ.だけの額を投入していただければわれわれの問題は解決します」と説明していたとしたら、二度目の投入というのは当初の予測が甘かったことを認めることになる。そうなると、二度目の資本投入を受けても、「本当にこれで充分なのか。実はまだまだ大きな損失を隠しているのではないか」という市場の疑心暗鬼をかきたてることにもなるのである。 実際、シティバンクに続いてサブプライム関連への関与が大きかったUBS(スイスに本拠を構える金融グループ)は昨年十二月、シンガポールとアラブのSWFから資本投入を受けることを発表したが、シティバンクの場合は11%、UBSの場合も9%の利払い条件が付いている。両行とも、サブプライムの住宅購入者より高い金利を払っているのである。シティバンクやUBSといった超一流ブランドがこのような高い金利を払ってようやく資本調達ができるということは、いかに今回の事態が深刻かということの証しである。それは同時に、その他の銀行にとって、現時点での資本調達がいかに難しいかということを意味している。 逆に言えば、金融機関関係者はみなそのことに気付いているからこそ、欧米のインターバンク市場がなかなか正常化しないのである。 ◆中央銀行の資金投入はあくまで金融市場の機能不全を防ぐため ところで、中央銀行の資金投入はインフレを引き起こす要因にならないだろうかという不安を洩らす人がけっこういる。しかし、今回の資金投入は短期金融市場が機能不全に陥るのを防ぐためのものであるから、その心配はない。その証拠に、インターバンク取引における金利と中央銀行(アメリカであれば連邦公開市場委員会=FOMC)が決める市場金利(アメリカであれば、FFレート)は2007年央からすさまじく乖離している。 本来ならLibor金利とFF金利はほぼ同水準で推移しなければいけないのに、今はまったくそうなっていないのである。銀行間の取引の金利にはリスクプレミアムが乗っているからである。つまり、FFレートの金利ではどこも資金を貸し出したくないのである。貸し手側からすれば、リスクプレミアムを上乗せして、それでも借りてくれるのなら貸してやってもいい、という状況がずっと続いているのである。 米国には八五〇〇行を超える銀行がある。リスクプレミアムのついたインターバンク金利ではとても資金を借り入れられない銀行はいっぱいある。だから中央銀行が間に入っているのである。 しかし、中央銀行が金融を緩和し金利も急激に下げているにもかかわらず、この銀行間の取引金利はなかなか下がってこない。本来であれば、中央銀行が決める金利のほんのわずか上あたりにインターバンク金利が推移しなければならないものが、今はそれをずっと上回っている。FRBはこの間ずっと金利を下げ続けてきたが、このリスクプレミアムが高止まりしているために、実質的な金利はFFレートほど下がっていないのである。 銀行にとっての調達金利であるインターバンク金利が下がってこないということは、彼らが企業や個人に貸す資金の金利もFRBの利下げほど下がっていないことになる。しかも多くの銀行は、サブプライム関連商品の巨額な損失を受けて自己資本比率が悪化し、与信を拡大できる状態にはない。 したがって中央銀行の資金投入がインフレにつながる恐れはない。それはあくまでも決済システムの機能を維持するための資金供給だからである。足元では確かに国際商品価格の上昇を受けインフレ気味になっているが、このインフレは後で述べるように金融現象というより投資機会不足というこれまで人類があまり経験したことのない事態が原因であり、昨今の各国中央銀行による資金投入とは関係ないのである。 実際、アメリカの実務上の中央銀行であるニューヨーク連銀のティム・ガイトナー総裁も、「われわれの資金投入で景気が回復したり、銀行システムが良くなったりすることはない。われわれは単に決済システムが機能不全に陥らないようにお金を出しているのである」という表現で、ここ数カ月の資金投入を説明している。たしかに巨額の資金が中央銀行から流れているが、それは、インターバンク市場で資金調達をしにくくなった銀行が資金ショートしないようにするための方策なのである。それが今の実態である。 しかし、政府および中央銀行がそうした手を打っているにもかかわらず、アメリカでもヨーロッパでもいくつもの銀行が潰れている。銀行の損失発表や損失の上方修正もずっと続いている。そうするとますます金融関係者はカウンターパーティー・リスクを心配するようになる。そうなると彼らは、ますます資金を貸し出さなくなってしまう。まさに悪循環が連鎖反応のように起こっているのである。(P16~P24)
◆NYダウ500ドル下落 株価1万円割れが近づいた 7月3日 日刊ゲンダイ ●ブラックマンデー再来の恐怖
FRBとECBが金融スタンスでズレが生じるなど、1987年のブラックマンデーの時と同じ状況が来ている訳ですが、緩慢な下げに留まったのはPPTによるおかげだろう。日本政府は株式市場にはまったく無関心であり、昔あったPKOという言葉は死語になってしまった。 90年代は公的資金が株の買い支えをしてきたのですが、今ではスターリン暴落以来の下げでも見向きもする人はいないようだ。銀行も資金運用先がなくて株を買ってもいいと思うのですが株式の持ち合い解消で株式運用に消極的になってしまったようだ。むしろ海外のファンドに投資をして、「みずほ」などはサブプライムに手を出して大きな損失を出している。 バブルの頃は財テクと称して経理屋さんがにわかファンドマネージャーとして証券会社の店頭でよく見かけたのですが、バブル崩壊後は証券会社も店をたたんでしまったしプロの株式投資家も株式市場から去っていった。だから売買高が2兆円を割り込むような状況になっているのですが、そろそろ相場の転機がやってくるのだろうか。 リチャード・クー氏の『日本経済を襲う二つの波』という本は、世界の金融状況がどのようになっているかを知るにはタイムリーな本だ。「株式日記」でもいろいろと書いているのですがアメリカの金融業界内部の事を知るにはリチャード・クー氏しかいないだろう。元ニューヨーク連銀にいた人だから高官たちとも話ができる人物だからだ。 「株式日記」が、アメリカやEUの金融市場が機能していないと書いてもインパクトはありませんが、アメリカの連銀にいた人が書いているという事は金融市場が麻痺しているのは本当だったのだ。FFレートが2%足らずなのにシティなどが11%で中東の政府系ファンドから資金を調達しているなど乖離が激しくて金融市場が機能していないからだ。 世界でまともにインターバンク市場が機能しているのは東京だけであり、FRBやECBは無制限の資金供給でなんとか市場を維持している状況だ。もし中央銀行がこれを止めてしまうと資金調達できない銀行が出てきて銀行が倒産してしまうからだ。 だから実質の市場金利はシティが調達した10%以上の金利であり、これでは貸し渋りが広がるのは当然だ。銀行自身もサブプライムがらみで大きく資産を減らしているから与信を広げるには無理であり貸しはがしが横行しているのではないだろうか? だからブッシュなどは政府が住宅ローンの保証をつけようとしている。 アメリカの金融業界がどの程度不良債権を抱えているのかは業界本人しか知る事はできない。リチャード・クー氏が指摘しているように資金調達できた段階で欠損を公表しているのだから、かなりの割合で不良債権を抱えているのだろう。しかもその不良債権は不動産そのものではなく、レバレッジのかかったファンドや債権投資だから市場が回復すれば値がつくものではない。 私は中央銀行のこのような資金供給が回りまわって株の買い支えや石油などのファンドによる投機に回っているのではないかと書いて来ましたが、クー氏は否定している。あるいはゲンダイの記事にもあるようにPPTが直接株の買い支えや石油投機に動いているのかもしれない。 アメリカのゴールドマンサックスやモルガンスタンレーは金融立国アメリカの政府系ファンドのようなものだから、FRBと組んでやればかなりの事が出来るだろう。為替投機なども円高にしたりドルの暴落を防いだりとかなりの事をしているのではないかと思う。FRBや財務省がやれば目立つがGSやMSがやればいくらでも誤魔化せる。 クー氏によればベアー・スターンズが潰れたのはLTCMが潰れた時に奉加帳を回しても応じなかったからで、紳士協定を破ればその制裁は何時どんな時にとられるかわから無いと言うことだ。だから金融業界は狭いから政府に逆らうとどんな制裁を受けるかわからない。 日本の金融問題にしても銀行が潰されるかどうかは財務大臣や金融担当大臣のさじ加減一つだったから「りそな」は救われた。竹中大臣は出資と融資の違いが分かっていないとリチャード・クー氏は厳しいが、竹中一派がテレビを牛耳っているためにクー氏はテレビに出られなくなってしまった。同時に同僚だった植草氏も冤罪にあって社会から葬られている。 「日本経済が襲う二つの波」を読んでいただければ、アメリカのバブル崩壊の状況が日本で言うどの段階であるかを説明していますが、アメリカのバブル崩壊はまだ序の口らしい。バーナンキは日本の金融政策に対してぼろくそに批判していましたが、バーナンキ自身が批判にさらされるのも時間の問題だろう。金融緩和だけでは今回のバブル崩壊を防ぐ事ができないからだ。 グリーンスパンがITバブル崩壊を住宅バブルで切り抜けたと「株式日記」で書いて来ましたが、クー氏も同じように解説している。しかしITバブルでアメリカ企業もかなり痛手を負っており借金は借りないバランスシート調整をしており、金融を緩和しても借り手がいない状況になりつつある。つまりアメリカも時間をかけて不良債権を処理していかなければならない状況に来ているのだ。 PR |
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